一方、賭博依存症患者に対する具体の対応措置は、民間レベルではかなり発展しており、様々な自主的、自立的な対応組織や非営利組織が組成され、対応措置が実践されている。州政府による財政支援を受けているプログラムもあれば、自らの財源ねん出によるプログラム等もある。これには例えば下記の如きものがある。
a. 依存症患者・家族支援互助組織:
依存症患者及びその家族による互助支援組織で、非営利団体となるギャンブラーズ・アノニマス(Gamblers Anonymous)が有名である。これは1957年に創設され、米国各州に支部があると共に、世界中に組織の輪が広がっている。活動資金は全て献金である。
b. 「米国賭博依存症国民協議会」(National Council on Problem Gambling、NCPG):
1972年に創設された依存症患者を支援するための中立的な非営利組織となり、賭博依存症患者とその家族を支援するプログラムやサービスの唱道者で、その目的は、賭博依存症に関する公衆による認知の向上、本人・家族のための治療サービスの普及、教育・防止プログラムの調査研究支援、治療支援等にある。このために、国レベルでの賭博ヘルプラインの運営、依存症対応カウンセラーの資格認定、国際会議の招請、文献や論文等の拡販、政府等の公的機関に対する教育等を実施している。構成員は州レベルでの非営利依存症対策機関(36機関)と、企業、個人からなり、NCPG自体は、国レベルでの業務が主体となり、実際の現場は構成員となる州レベルでの非営利機関がこれを担っている。活動資金は献金である。
c. 「責任あるゲーミングの為のナショナルセンター」(National Center for Responsible Gaming, NCRG):
業界団体でもある米国ゲーミング協会(AGA)の資金拠出及び支援により1996年に設立された非営利団体であり、非営利団体とはいえ、AGAの一翼とみなされている。依存症患者問題、未成年賭博の問題を広く理解させること、実際の問題者の救済を支援すると共に、より効果的な治療方法を開発することなどを目的とする。ハーバード大学と連携し、賭博依存症の調査研究を支援し、2000年に賭博依存症関連精神疾患研究所(IRPGRD, Institute for Research on Pathological Gambling and Related Disorders)を設立している。過去、カジノ事業者、機械製造家等より2200万㌦の募金を得ている。
d. 依存症患者カウンセラー認証機関:
上述したNCPGが事務局を担う「賭博依存症カウンセラー国際資格認定機関」(IGCCB~ International Gambling Counselor Board) あるいは「全米賭博依存症カウンセラー認定機構」(American Compulsive Gambling Counselor Certification Board)等の非営利団体が、必須の能力、資格、経験等を定義し、資格認定判断基準を設け、賭博依存症患者に関するカウンセラー認定を実施している。州政府単位でも行われているが、全米規模での認証は非営利組織が担っているのが米国の実態である。
このほかにも、民間レベルでは、大学・研究機関等の調査研究機関や、地域単位での賭博依存症治療・医療機関、あるいは非営利組織となるカウンセリングや相談の為の機関等が州毎に存在し、地域社会における依存症対応プログラムに参加している。また、主要カジノ事業者レベルでは、地域の大学、研究機関への寄付や調査研究支援、あるいは地域単位での賭博依存症治療・医療機関、非営利組織等への財政支援や寄付などもかなり行われている。
尚、2009年6月17日、下院に2009年包括的賭博依存症法案(HR2906号)が提出されたが、これは上述せる賭博依存症国民協議会(NCPG)等の主張を取り入れたもので、連邦予算から賭博依存症の予防、調査研究、治療に当たる州政府の機関や民間非営利団体に対し、連邦政府が間接的に取得する賭博関連税収の中から一定期間に亘り、一定額の補助金を付与するという法案である。州政府を管理することが目的ではなく、あくまでも連邦政府による支援措置を実現しようとする内容でもあったのだが、連邦議会の賛同を得られなかった。かかる対応をすべき主体は連邦政府ではなく、あくまでも州政府であって、連邦政府の管轄事項ではないとする意見が過半を占めたからである。