ゲーミング・カジノの施行を担う民間主体の資格要件をどう設定し、免許を申請する民間主体をどう審査・評価して免許を与えるのであろうか。わが国の行政法的な過去の類似慣行では、法律で欠格要件のみを規定し、欠格でなければ資格要件を満たすという単純な考え方をとることが多い。欠格要件とは、否定的な要件、例えば犯歴などがある主体、暴力団組織の一員である場合等になり、これらを法律上の欠格要件として限定列挙する形で定義し、それ以外は問題なしとする考えになる。これは、客観的な条件を規定することにより、資格の無さを定義するという考え方でもあろう。確かに公平さを確保した考えとなるが、欠格要件だけでは極めて限定的な状況のみを定義するため、これでは潜在的にリスクがある主体が認められてしまう可能性を排除できなくなる。例えば法律上の要件を表面的に満たしていても、公安・規制機関から見て、限りなく疑わしい主体、好ましくない主体が申請者となりうる可能性も零ではないということになる。この場合、法律上の欠格要件のみでは、グレーな主体である場合、申請を拒否する根拠が法律上なくなってしまう可能性もある。
一方、欧米諸国によるゲーミング・カジノへの参加に関する資格要件とは、この様な単純な考え方をとらず、客観的な要件とともに規制機関の判断による主観的な判断を加味することが通例である。例えば、欠格要件とは無資格となる根拠なのだが、これとともに、保持されるべき要件としての適格性要件(肯定的な要件で保持されるべき資質等)も同時的に定義され、これを満たすことが要求されることになる。後者はかなり主観的な判断になってしまう側面がなきにしもあらずということになるが、「特権」(プリビレッジ)である以上、一定のあるべき要件が満たされてしかるべしという考え方が欧米諸国にはある。「公平さ」よりも、例えその判断が主観的であっても、「一定の要件を満たす」ことが事業の健全性、安定性等の観点から公益に資すると考えていることになる。
この審査・評価・許諾の手法には、いくつかの選択肢がある。もっとも一般的な考え方は自由な申請行為を認め、当該申請者を審査・評価して、ライセンス~免許~(Gaming License)を付与することであろう。ライセンスとは、申請者による申請内容を規制機関が背面調査により、審査、評価し、一定の適格性基準を保持していると判断される場合、個人、法人の申請主体に対し、規制機関より付与される特許の如きものになる。尚、例えライセンスが付与されていても、許諾者が基準を満たさないと規制機関が一方的に判断した場合、その時点でこのライセンスは規制機関により停止されるか剥奪される。また当然のことながらこのライセンスは第三者に譲渡することはできないし、定期的に更新の対象となる。このライセンスを取得できた者のみが、カジノの施行に直接的、間接的に関与することができることになる。かつ一旦排除の対象になった場合、この世界に二度と足を踏み入れることはできない。
一方、適格性認証(Probity Test)とは英国やニュージーランドで実施されている手法で、免許を申請し、免許を担うことができる当該申請者の適格性を(ライセンスの申請、付与とは、全く別に)ライセンス申請前に別途認証するという考え方になる。これは個人、法人に拘わらず潜在的な全ての事業者、関係主体の潜在的・顕在的適格性を判断するために、当事者の申請行為により規制機関が背面調査を含む審査・評価・検証し、その適格性を認証する行為になる。但し、これはゲーミングの施行に関与できる許諾申請の必要条件の一つにすぎず、この認証のみで、賭博施行を実施できたり、参加できたりするわけではない。賭博施行を許諾の枠組みは全く別にあり、申請者が適格性認証を予め取得しておいて、初めて事業運営の許諾申請ができるという仕組みになる(ゲーム運営を許諾するか否かには別の判断要素、別の判断主体が加わることになる。適格性認証を確認する主体と、特定地域に設置を認める主体が異なる場合等にかかる手法が採用されることがある。よって、例え適格性認証を取得できていても、カジノ施行者になれるとは限らない。例えば総設置数が限定され、それ以上の適格性認証取得者がいる場合、一部の民間事業者は施行者にはなれない。ニュージーランドではかかる事象が現実的に生じており、免許は取得したが、政府が新たな施設設置を認めない方針を明確化したため、意味のない免許を保持した企業が生まれてしまった)。この場合、適格性認証を満たす主体間で施行許諾(ライセンス)自体を市場において譲渡することは可能になる。例えば、適格性認証を取得していても、施行数を制限する施策があったり、特定自治体の許諾を取れなかったりした場合などは、これのみでは施行できないが、既存の事業者をM&Aで吸収してしまえば、適格性認証を取得したことにより、施行に参加できる可能性もあることになる。
いずれにせよ、共通している考えは、①入り口で不適格者を認識、判断し、リスクのある主体は排除し、一切この業界には参加させないこと、②欠格要件のみではなく、適格性要件を設け、施行に参加できると判断した主体の行動基準・倫理規範を高いレベルに留め、その遵守を求めることが条件になること、③もし、この一定の基準を満たしていない、あるいはこの水準から逸脱していると規制機関が判断する場合、規制機関の一方的な判断により、この免許、適格性認証などの停止、剥奪ができること、④その判断には、一部主観的な基準も入りうることなどであろう(尚、不服の場合の当該事業者がとりうる措置は国によっても異なるが、一定の救済措置は定義されることになる)。