カジノとは、あくまでも個人責任による成人の遊興でしかすぎず、顧客個人の判断、責任による賭け金行動の在り方は、制度上これをあまり規制しないことを通例とする。カジノ・ハウスも、自らが許容できる範囲内で、顧客の賭け金が例え高かろうと、ハウスの許容範囲内において顧客の賭け行為を受諾するのが基本である。ここで原則と書いたのはそうではないケースもあるわけで、一国や一地域における状況次第では、ゲーミング・カジノは認めるが、過度の射幸心を煽る行為や、過激な賭け金行動は好ましくないという政策判断から、顧客の射幸心を抑制するために、施行者に一定の義務を課したり、制度や規制により、顧客による一定の賭け金行動を抑制的に規制したりすることが行われている。これは、①地域住民の反対を抑え、合意形成を図るための手段としてかかる規制を用いたり、②過度な賭け金行動を規制することにより社会的病理となる賭博依存症患者の発生を抑止したりすると共に、③地域社会における秩序が乱れないように、過度の射幸心を煽る行為を抑制したりする等の施策方針に基づき行われるものである。
この具体的な手法には様々な考え方が存在する。例えば下記等である。
① 顧客の賭け金行動を規制する:
ゲームの一回の賭け金上限をある程度低く設定する、顧客の一日あたり総賭け金上限設定をする、あるいは顧客損失上限設定をするなど、賭け金の絶対額に制限を設ける考え方になる。電子式機械ゲームのプリ・コミットメントシステム(一日の総賭け金を予め設定した場合、それ以上の賭けができなくなる仕組みを機械自体にはめ込む考え)等も類似的で顧客の賭け金行動を規制する考えになる。確かに社会的問題は縮減するが、もし全面的にかかる考えが採用されたならば、これではハイ・ローラーと呼ばれる高額支出VIP顧客を集客できず、売上は減ることになる。
② 顧客に対する資金貸し付けを規制する:
あくまでも保持する現金のみで、ゲーミング賭博に参加することを推奨するもので、ハウスが一般顧客に対し資金を貸し付けることを禁止したり、カジノ場に銀行ATMやクレジットカード換金システム装置を設置すること等を禁止したりする。過度の賭博行為を抑止する効果がある(規制の対象は一般顧客のみとし、高額支出VIP顧客は対象外とする考えもある。特に諸外国からの高額賭け金者に対しては何らかの資金融通の仕組みが集客上必須の要素となるからである)。
③ ゲームが提供される環境を規制する:
カジノは閉鎖無窓空間であることが多く、かつ24時間営業を常とする。時間の概念を忘れさせるという意図的な配慮があるためだが、逆に時計を見える所に設置したり、パンフレットなどにより、賭博行為において勝てる確率や危険性などを周知徹底させたりすることにより、過剰な行動を慎むべく抑止する環境を整備することを義務づけるなどの規制になる。
④ 過激な公告を禁止したり、射幸心を煽るプロモーションを抑制したりする:
必要以上に過度の射幸心を煽らないため、あるいは未成年者の目に触れないように、国内においてイベントやプロモーションを宣伝する行為を禁止したりする規制になる。
最も、過剰な反応により、過度の規制を強いてしまったという事例も一部には存在し、米国でも当初は厳しい設定をしたが、数年後これをより現実的に緩和するなどの是正措置をとった州もある。規制をかけることは消費行為を抑止することを意味し、全般的な収益減・税収減に繋がりうる。為政者並びに施行に関与する民間主体にとっても二律背反的な側面がある課題になる。2006年までの英国では、新規カジノ施設を設置するためには、規制当局に対し、当該地域に意図的に刺激され創出されたわけではない需要(Unstimulated Demand)が存在することを立証する責任があった。意識的に射幸心を煽れば賭博需要は増えるだろうが、かかる需要をベースとするのは不健全という施策方針でもあった。結果、この制度では新設カジノは殆ど実現しなかったという過去の事実がある。立証することは不可能に近かったわけである(英国では、2006年新法の制定とともに、この規定は廃止された)。
尚、差別的に地域住民と来訪外国人客を分け、地域住民の過剰な賭博行動を抑止するために、外国人の入場は無料とし、一方内国人は年会費制や入場料徴収などの手段をとり、消費を抑止しようとする規制が現実にシンガポールでとられている。これも一つの政策だが、効果があるか否か、如何なる影響があるかは、開業後年数がたっていないこともあり、未だ明確な評価があるわけではない(需要が高ければ、入場料程度では抑止の効果はあまり無いという事情もありうる)。国内需要は、たとえ市場が狭隘でも、安定的な市場セグメントを構成することになるため、これを差別的に取り扱うことは、安定的な事業性を確保することにはつながらない。