既に述べたようにゲーミング・カジノにおいては、施行を担う主体は厳格に規制されるが、顧客に対する規制は極めて少ないことが基本的な考え方になる。賭博行為のリスクとは、顧客側ではなく、施行者側により大きくあるという認識がそのベースにあるからである。では顧客に対しては如何なる規制が課されるのであろうか。カジノ場への入場に対する制限、賭博行為に参加に対する制限、遊び方の内容に関しての制限等が主たる規制になる。尚、顧客を規制することなしに、施行者を規制し、賭博行為の供給の在り方を制限することにより、結果的に顧客の自由な賭け金行動を規制するという手法もある。通常はこの二つの手法を組み合わせ、全体として合理的な仕組みを作ることが志向される。
主要な対顧客規制の考えは下記になる。
① 未成年者入場禁止、ゲーム参加禁止:
通常如何なる国でも20歳未満(あるいは18歳未満)の未成年はカジノ場へは立ち入り禁止となり、ゲームに参加することも禁止となる(未成年者による賭博行為をUnderage Gamblingといい、如何なる国でも禁止事項である)。施行者の義務として、顧客入場の際に未成年者を特定化し、賭博場に入らせないようにする職員教育の徹底が設けられることが多い(監視、警備職員による場内監視、デイーラーによるチェック、必要と判断される場合、本人確認のために身分証明書の提示を要求するなどが規定される)。ある顧客が未成年者として特定された場合、規制当局への通報義務があり、顧客の賭博勝ち分は没収され、かつ施行者に対しては、未成年者の立ち入りを防止できなかった罰則(罰金刑)が課されることになる。勿論、場内入口で全員の本人確認をする国では、確実に入口で未成年者を排除できる。入場に際し、パスポートないしは身分証明書の提示が求められるわけで、一部欧州の国や韓国・シンガポールなどではかかる慣行が実施されており、これでは未成年者は入る余地はない。一方、入場時におけるチェックを厳格にしすぎると、顧客が忌避する可能性もあり、どう管理するかには工夫を要する場合も多い。
② 欠格者排除及び秩序を乱す者の排除:
法律上の欠格者(上記未成年と共に、例えば禁治産者、暴力団員等)は、カジノ場への立ち入りも、ゲームに参加することも禁止され、発覚した場合には排除及び罰則の対象になる。また、規制機関・施行者が任意の判断により不適切と判断する顧客や、酒乱等場内において明らかに秩序を乱す顧客等に関しては、同様に排除の対象となる。場内秩序維持は基本的には施行者の義務でもあり、施行者の警備部隊がこれを担うことになる。監視部門と連携しつつ、場内を警備し、問題があった場合には直ちにかけつけ、顧客を排除するか、必要な場合、警察官、規制機関職員がコールされることになる。カジノは基本的にはその監視、警備の厳格さより極めて安全な場所でもあり、犯罪が生じたり、秩序が乱れたりする行為は限りなく限定される。規制機関・公安当局が情報を保持している暴力団員等の不適切な顧客は、データー・ベースがあれば、顔認証等により施設の入場時点で特定し、排除することは可能な技術が既に存在するが、実施できるか否かは、データを保持する公安当局の方針次第であろう。
③ 自己排除・家族排除プログラム適用者の排除:
賭博依存症患者が自己ないしは家族による申告によりカジノからの排除を要請した場合、これを登録し、以後、一切のカジノ施設への立ち入りを場内入口で監視し、入場を禁止するという措置になる。国、地域によっては、これに違反し、場内に入った場合には、家屋侵入罪として犯罪を構成させ、制度によりこの考えを補強する措置が取られている。この場合、一端リストに掲載された場合、所定の手続きを経なければリストから削除できない仕組みを前提とする。
④ 顧客賭け金行動規制:
顧客による賭けごとへのめりこみを避け、施行者が過度の射幸心を煽らないように、施行者が提供する賭博行為の遊び方に制限や規制を設け、結果的に顧客による賭け金行動を規制するという考え方になる(義務は施行者に課せられ、顧客の過激な行動を未然に抑止するという考えになる)。これには賭け金の上限や損失の上限を規定したり、問題がありうる顧客を特定化し、賭博をさせないように推奨したりすること、顧客に対する与信行為を制限すること等の手法がある。
この様に、対顧客規制は基本的には欠格要件による入場禁止ないしは特定顧客の排除(上記①から③)が主たるもので、後は、施行者を規制することにより、結果的にゲームの提供や提供の仕方をコントロールし、顧客の行動を誘導する考えのものでしかない。この意味では極めて限定され、施行者の規制とは比較できないほど簡素化していることになる。