カジノとは、顧客に対してサービスを提供する業である以上、本来、カジノに来訪する顧客を差別化するべきではない。来訪する顧客は同等に、かつ公平に扱うことが本来の遊興施設としてのあるべき姿になる。勿論、営業的に、あるいは政策的に例外的な措置がとられることもある。例えば、施行者の営業・マーケッテイング戦略として、顧客層を差別化し、セグメント化することにより、営業的な対応を変えるアプローチである。高額賭け金VIP顧客は一般顧客と差別化し、特別な優遇や隔離されたサービス提供の対象となる。尚、政策的にこれを支援するか否かは、各国の事情により異なる。例えば海外から高額賭け金VIP顧客をカジノへと誘致することが重要な施策であるならば、制度としてこの部分の顧客から得られる収益に対するカジノ税率を軽減し、かかる顧客の集客を促す施策をとることが行われている。施行者にとっては税率が低い分魅力的でVIP顧客の売上を増やすインセンテイブが働き、為政者にとってみれば、税率を下げても、総売上が向上すれば、その分税収が増えるという算段になる。
一方、制度的な規制により、正当な顧客でもある特定の顧客層を排除したり、特定顧客の参加を抑止したりするような考え方が実施されている。実際の顧客数とその消費を意図的に縮減する効果があり、営業政策や、事業性の観点からは、必ずしも好ましい考えとはならないこともある。政策的事由により顧客を差別化して、顧客の入場を禁止ないしは抑制する施策には下記四つなどがある。
① 入場禁止(対内国人対策):
カジノ施設を外貨獲得の為の手段と割り切り、内国人(自国民)には、その参加、利用を一切認めず、差別化する考えになる(所謂外国人専用カジノである)。専ら、賭博の経済効果は積極的に認めるが、あくまでもこれを限定的に捉え、国内の社会問題や公序良俗の問題から、問題を遮断するために内国人の利用を認めないとする考えになる。この場合、内国民には殆ど関係ない施設になり、施設規模も、経済効果も限られるが、小規模施設で、もし外国人旅客を効率的に集客できる場合には、一定の効果を上げることができる。途上国における外貨獲得のための外国人専用カジノはかかる施設類型になる。実際の外国人専用カジノでは、適用ルールやゲームはほぼ外国の慣行を踏襲し、制度的には国内法では特例措置として構成されるため、精緻なものとはならない。単純に政府課税率や税徴収手法を定め、運用により問題があれば規制するという考え方が通例の様である。規制の実態はなく、問題が生じた場合には、公安当局が介入するという形になり、必ずしも適切な規制の考え方ではない(韓国の外国人専用カジノはこの典型になる。まずカジノありきで制度は後追いになったため、様々な課題を抱えながら現実が存在するという事例になる)。
② 入場抑制(対内国人対策):
内国人を入場禁止にしないまでも、その参加や入場に差別的待遇を設け、内国人による消費を抑止する場合がある。例えば典型的な例がシンガポールになるが、外国人旅客や在住外国人はフリーパス、無料だが、内国人は入場に際し、毎回ないしは年一度、かなり高い入場料をを支払うことが条件になる。内国人による過度の消費を抑制するために、費用負担制度を制度的に設けていることになる。同様に内国人に対しては、ハウスが与信を与え、金を貸し付けることは禁止するが、外国人に対してはハウスのリスクでこれを可能にするなどの考え方もある。いずれも本質論としては国内対策であり、国民の同意取得のための一定の施策であるともいえる。
③ 入場抑制(対地域住民対策):
一方同じ内国人でありながら、上記の外国人と内国人の関係を地元住民と来訪観光客になぞらえて、地元住民のゲームへの参加を抑止するという考えもある。物理的に差別化できるのか、果たしてコントロールができるのかという実務的問題はあるが、やはり目的は地域同意を得るために、地域住民による参加を差別的にコントロールするという施策の表れになる。果たして効果的な実施ができるか否かは疑問だが、例えば、一週間の内、特定の曜日のみ、地域住民の参加を可能にし、その他は禁止する等といった地域規制の考え方になる。
④ 入場抑制ないしは禁止(賭博依存症患者対策):
賭博依存症の症状を呈する顧客ないしはその家族による要請により、特定顧客のカジノ施設への入場を抑制ないしは禁止する措置になり、制度によりこれが補強され、強制的な入場禁止となることがある。
いずれの施策も、顧客の消費を抑制する効果があるが、場合によっては事業性自体を大きく減殺しかいない側面もある。過剰な規制は、カジノのメリットそのものをも減殺しかねないことに留意が必要であろう。