新たに制度を設け、規制を創出し、施行を規制・監視し、法の執行を担うことは、行政当局にとりかなりの費用がかかる。ゲーミング・カジノに関する法制度を創出する目的の一つは新たな税源の創出であって、税金をこの為に支出することではない。よって、制度創出にかかる費用、また規制を担う社会的費用は全て施行収益から支出すべきとする考え方が欧米諸国では主流になる。税は税、税の一部が当該費用に割り当てられればよいとは考えず、税負担とは別に追加的に規制の費用を施行者に分担せしめる枠組みを考えることになる(我が国ではあまり例がないが、行政費用の分担金あるいは一種の負担金みたいな考え方になる。本来特権として認められた行為である以上、規制の費用はその主要受益者による負担で賄うべきとする発想でもあろう。さもなければ規制の費用は一般会計から税を原資として予算計上する必要がある)。
これには下記選択肢がある。
① 行政府の開発費用分担金(実現前)徴収:
法制度創出や、実際の事業者選定入札等に関しては、関与する公的主体にとり、一定の経費がかかる。国の場合、規制機関の創出や、制度構築に関する費用、アドバイザー・コンサルタント等の第三者費用等である。実際の事業者選定に別の公的主体(例えば地方政府等)が関与する場合には、別途、公募書類や契約等の作成にコンサルタント等の開発費用もかかる。これら事業が開始される前の開発諸費用に関しては、施行者が選定され、認証された段階、あるいは実際の営業が開始された段階で、過去の行政経費の総費用を一括払いで分担、補償させるという場合が多い(一種の許諾に伴う一括払い分担費用とみなすわけで、国の場合で、施行者が複数存在する場合には推定売上から按分して分担させることになる。また、施行地点の地方政府の場合には、対象となる事業者から直接回収する。大きな金額となる場合、確実に償却できるように繰越損に関する税務上の配慮が必要となることもある)。
② 行政府の規制・監視費用分担金(実現後)徴収:
国の期間の場合、実際にかかった行政コスト(前年分)を売上別に既存の施行者に割り振り、費用を回収する(当該行政部門の全ての費用を年毎に総計し、翌年度、施行者の売上高に応じて按分して、分担金とし、かかった実費用を施行者に補償させるという手法になる。上記①と組み合わせ、制度創出から実際の施行開始までの期間、施行後と漏れの無い形で適切なタイミングで費用を回収する考えであるともいえる)。尚、国ではない施行地点の地方政府が監視等に関与する場合等は、別途施行者から費用を徴収することになる。
③ 免許・認証・許諾料徴収:
免許や認証の申請並びに許諾行為に際し、申請者や許諾を受ける主体から予め定められた料金を徴収する考え方である(米国ニュー・ジャージー州などはこの手法で、施設実現後の規制費用を賄う原資としている。歳入源が限られるため、負担する主体にとっての費用は高くなる。一方、かかる手法をとることにより、議会の承認を必要としない予算を規制機関が確保できることになり、その中でやりくりすることができれば、それだけ政治的独立性を担保できるという主張もある)。
④ 審査費用等実費徴収:
許諾の背面調査等、特定目的の調査や審査のために要した実費用は、別途個別に請求する手法をとる。通常は一定額を前払いとし、不足分は必要に応じ、都度支払うという形態をとる(通常の規制当局の活動以外に、許諾等に関し、背面調査が必要となる場合、別途活動費用を施行者に分担させるという考えになる)。
一端、一般財源として歳入に入ると、特定支出の為にこの税を用いることは予め法により定めておかない限り難しいというのは如何なる国においても事情は同じである。また、規制機関の予算は立法府・行政府の意思から離れた枠組みで措置したほうが好ましいとする議論もあり、規制のコストはコストとして、税とは別枠で施行者の施行収益の中から負担させるという考え方が根付いたのであろう。勿論これはカジノがキャッシュ・リッチであること、かかる費用負担に耐えられるということが前提となっているが、規制の社会的費用を施行者の施行収益から負担するという考えは欧米諸国では通常の考え方となっている。
この様に、諸外国のカジノ法制では、賭博規制の社会的費用は全て施行収益にその財源を求めるべきということが基本となっている。一方、何らかの合理的な上限や、費用をチェックするシステムが無い限り、行政府による無駄な支出を認めることになり、これでは費用の管理もできず、民にとっても大きな負担になるのではないかとする議論もある。また、あまりにも費用負担をゲーミング業界に依存すると、逆に規制当局が業界よりのスタンスに傾いてしまうのではないか等を危惧する声も無いわけではない。