カジノ施設は労働集約産業、よってカジノを設置することは地域社会にとっても雇用の提供と雇用確保という政策的効果は高いといっても、単純に理解できない方も多いかもしれない。実は運営面ではカジノは優れて労働集約的な産業でもあるのだ。たとえば、テーブル・ゲームには必ずデイーラーと呼ばれるゲームを司るハウスの職員が配置されるが、この他に不正や顧客を監視し、テーブル間の調整をしたりするためにフロアー・パーソンと呼ばれる監視・管理スタッフがテーブル数個毎に1名配置される。更にピットと呼ばれる単位毎にフローアの一定区画のゲームをスムースに進行するための管理職が配置される。この内、ゲームを運営し、かつチップの配当等を効率的に担うデイーラーの仕事は結構神経を集中する仕事でもあり、通常一定時間毎に、クルーを組み、交替しながらゲームを運営する。ゲームによっては1人では無理で、数人必要なものもある(たとえばさいころのゲームであるクラップス)。また24時間営業を前提とする場合、上記を前提にし、シフトを編成し、クルー毎にこれら実動部隊が編成されることになる。よって、ゲームを担う現場だけでもかなりのスタッフを必要とすることが想定される。この他、表には見えないがバック・ヤードと呼ばれる支援組織には監視、警備、保安や金銭出納、機械システム維持管理から始まり、総務、経理、対顧客サービス、マーケッテイング、コンプライアンス、職員給食・福利厚生などかなりのスタッフが必要になるとともに、24時間体制で組織を管理し、運営するわけで、人をかなり雇用する労働集約産業と断定しても差し支えないであろう。数百のテーブルがある場合、数千人の職員が表と裏でこれを支えるという構図に近い。全体としてみるならば、カジノ施設の雇用効果はかなり高い。おそらくあまり人を使わない部分はスロット・マシーンやビデオ・マシーンを設置した機械ゲーム部門のみになる。
カジノだけでもその雇用効果は大きいが、カジノの付帯施設やホテル、コンベンション施設等の会議施設、ショッピング・モール、飲食店などの周辺の対顧客サービス施設やアメニテイー施設等をも含めると、その雇用効果は更に大きくなる。カジノはカジノ施設が単体として存在しているわけではなく、様々な付帯施設が並列的に存在し、これらが多種多様の付帯サービスを提供している。例えば中堅のカジノだと、500室ホテルが併設というのは当たり前だが、大規模リゾート・カジノとなると、5000室のホテル併設等という場合もある。これらホテルや関連する飲食施設、あるいは物品販売施設、コンベンション施設やショー・ビジネスやライブ・エンターテイメント等の存在も雇用を増大することに繋がっている。カジノを含む複合観光施設は巨大なサービス産業であると理解した方が良いのかもしれない。近年シンガポールにできた二つのカジノを含む統合リゾート(IR)では、一つの施設で約1万人の直接雇用を生み出しており、その他の間接的雇用を含めると二つの施設総体で約5万人の雇用効果があるといわれている。
尚、これら施設を建設するためには膨大な労働力を必要とするとともに、カジノの運営を支える周辺のソフト産業やハード産業による雇用力にも着目すべきであろう。例えば、かなりの数に達すると想定されるデイーラーや職員等に対する専門教育や管理者教育の為の外部教育機関は必須であろうし、監視や警備・保安システムや管理システムの供給と維持管理、顧客を誘致するためのマーケッテイング組織、ホテルやコンベンションを併設する場合、そのための集客営業とこれらコンベンション+ホテル組織を運営する職員等も必要になってくる。また、一端特定の区域がエンターテイメント集客施設として集客力と消費力を発揮すれば、顧客の移動に伴う交通インフラや周辺地域も経済的に活性化することになり、これらが二次的、三次的な雇用効果を生むこと等も考えられる。
カジノは様々な複合的なサービスを周辺に保持し、これらを総体としてサービスとして顧客に提供する産業であるといってもおかしくはなく、その存在は内部と周辺、外部に大きな雇用創出効果をもたらすことができる。だからこそ、地域再生や地域再開発と絡んで、カジノ設置を政策として推進することが多いわけである。