米国では20世紀初頭以降の組織犯罪の歴史は政治的腐敗と切っても切れない関係にあったといってもよい。また、これを許容するような社会的風潮もあった。社会が違法行為に目をつむってしまったのは、必ずしも市民の日常生活に脅威をもたらす存在ではなかったという事実と共に、州議会や州行政府のトップにまで賄賂や汚職が蔓延する状況が存在し、マフィアによる政治的圧力や報復の脅し、あるいは個人自らが関連する事業に何等かの形で関与していた等の背景が多々あったからである。組織悪は従前から社会の中に存在したが、禁酒法の時代に彼らは富をなし、力を蓄え、社会的な影響力を高めたといえる。これは闇市場ができ、一般市民がこれを支え、違法組織がこれをもとに資金源を得るという構図が社会に定着してしまったことを意味し、組織悪は一種の必要悪になってしまったことになる。また、マフィアは組織的に米国の政治と社会に入り込み、組織悪の仲間内で一種の「組合」を構成するまでになってしまっていた。
但し、このマフィアの存在が、市民社会に様々な悪影響をもたらしているという事実を段階的に連邦政府と国民が認知するに至り、これが政治的な反対運動や犯罪組織の撲滅運動をもたらすことになる。この国民意識の転換期は、第二次世界大戦後の豊かな世界の始まりの時期で、1951年頃でもあった。この社会的な動きが国レベルで高まることになり、1950年代後半を通じて、組織暴力を社会から段階的に締め出すという制度的試みが連邦政府により実践されはじめた。その後、1960年代に、当時の政権のケネデイー司法長官による運動により、国としての犯罪組織撲滅へと繋がる基本的施策と制度的ツールが固まったといえる。
1960年代以降は、かかる基本的な制度的枠組みに加えて、法の執行のあり方により強い権限が付与される様々な制度的補強がなされることになった(例えば電子監視、情報提供者の活用、背面調査、証人保護の仕組み、司法取引、おとり捜査等である)。また、1980年代以降は国際化やグローバリゼーションに伴い、麻薬、国際犯罪やテロ組織との関連も規制と管理の対象になっている。この間、制定された、主要な連邦法としての組織犯罪法制度には、下記等がある。
(a) 1968年「包括犯罪管理安全街路法」(Omnibus Crime Control & Safe Street Act, Title42 USC Sec 3711):
組織犯罪を規制するための基本法で、組織犯罪をより広範囲に定義した内容の法律。但し、既に組織犯罪は、社会や政治へ複雑に関与しているのが現実でもあった為、以後この法律は様々な形で補強され、実践されることになる。
(b) 1970年「組織犯罪管理法」(Organized Crime Control Act, OCCA, 公法91-452 84 Stat Sec 922):
組織犯罪を根絶するための証拠収集のための法的なツールを強化するための法律。
(c) 1970年「不正収益・腐敗組織法」(Racketeer Influenced and Corrupt Organization Act, 通称RICO法, Title 18 USC Sec 1961~1968):
1970年組織犯罪管理法の一部として追加的に制定されたもので、合法的なビジネス領域に違法な組織犯罪が介入することを防止し、かつ犯罪組織の摘発を目的とした法律。
(d) 1970年「銀行機密法」(Bank Secrecy Act, Title 31 USC 5311 et seq):
マネー・ロンダリング法制の基本となった法律。
(e) 1984年「包括犯罪管理法」(Comprehensive Crime Control Act, 公法98-473, 98 Stat 1762):
刑法の包括的改正規定で、犯罪行為に伴い取得された資産の接収の範囲を拡大した法律。
(f) 1986年「麻薬乱用違反法」(Anti-Drug Abuse Act, 公法99-570, 100 Stat 3207):
マネー・ロンダリング、麻薬の販売等の罰則を強化し、対象となる薬品を拡大し、強化した法律。組織犯罪の収益源を根絶することが狙い。
(g) 1986年「マネー・ロンダリング管理法」(Monetary Laundering Control Act, 18 USC Sec 1956, 1957):
違法行為を隠す金融取引の取り締まりを基本とした法律で、かかるマネー・ロンダリング行為を犯罪と規定した。尚マネー・ロンダリング関連法制はこの後、更に展開し、様々な法律が存在する。
(h) 1988年「薬物流用人身売買違反法」(Chemical & Diversion and Trafficking Act):
薬物管理法(Controlled Substance Act, 公法91-513, 84 Stat 1242)の改正で、化学品、薬品梱包・カプセル等、麻薬に関連しうる材料等の取引、輸出入を規制するための法律。
(i) 2001年「米国愛国者法」(US Patriot Act 公法107-56, 115 Stat 272):
9・11テロ事件の結果採択された法律で、 単純にテロ行為のみではなく、警察公安当局の調査権限を拡大した内容になる(例えば電話盗聴による監視など)。
段階的に法を執行するためのツールが準備され、法の執行を確実に厳格化していったことになる。組織犯罪自体が、表ではなく、巧妙に正当な経済主体の裏に入り、犯罪収益を隠匿する仕組みを構築してきたことも事実であり、このために、制度自体も緻密化、複雑化していったという経緯がある。この結果、現代社会においては、所謂マフィアと呼ばれる組織悪や組織犯罪は、いまだにその痕跡を残してはいるが、ほぼ、表の米国内の経済活動では根絶されているといえる。一方、麻薬や国際テロ等別の分野での組織犯罪は国際的に活性化しており、全てが無くなったわけではない。これら法律の枠組みは、ゲーミング・カジノとは直接関係があるわけではないが、カジノは組織暴力の資金源となる可能性あるため、これを断ち切る関連する規定が含まれている。これらは、60年代、70年代を通じ、カジノに存在したマフイアをカジノから根絶する重要な制度的枠組みとして機能したことになる。