1960年代に連邦政府がとった一連の連邦法の考えは1970年代も継承されることが、時代の基本的な趨勢となった。一方1970年代になると、組織犯罪は、最早表のビジネスではなく、表は合法性をまといながらも、裏に隠れ、犯罪収益を隠して、巧妙に違法行為をするという風に変化してきたことが実態である。これに対応する形で、関連する連邦規制や法の執行を段階的に強化する施策がとられてきた。一方1990年代以降の、インターネットやICT技術の発展は、賭博行為規制の原則は州政府という考え方を変えざるを得ない状況をもたらしつつある。インターネットは明確に州境を超える取引であり、州政府の規制ではもはや対処できなくなってきた側面もあるからである。
1970年代以降の主要な州際間の賭博に関連する連邦法には下記等がある。
① 1970年「違法賭博業法」(Illegal Gambling Business Act、Title 18 USC Sec 1955):
組織犯罪管理法の一環として制定された法律で、大規模な違法賭博行為が、組織犯罪の資金源となり、州際間の取引に大きな影響を与えているとの認識に基づき、賭博行為を違法州際間取引とし、これを規制し、罰する内容となる。
② 1970 年「不正収益・腐敗組織法」(Racketeer Influenced and Corrupt Organization Act、通称RICO法、Title 18 USC Sec 1961-1968):
上記と同様、組織犯罪管理法の一環として制定された法律で、通称RICO法と呼ばれている。組織犯罪の収益源となる違法賭博行為や違法ブック・メーキング等の犯罪を根絶するための目的で制定されたもので、違反の場合には、刑法上(禁固年から終身刑)、民事上の罰則が課される。組織犯罪が州際間の財務取引に巧妙に入り込んできたことに対する対応で、組織犯罪と戦うための攻撃的なツールを提供した。この法は、合法的な組織に不正な資金が入ることを防ぐ三つの防御を定義する。即ち、1)不正な活動から得た資金や非合法な負債から得た資金を投資することの禁止、2)不正資金を取得する行動を担う企業を所有し、保持することの禁止、3)かかる手段を用いて取引をすることの禁止である。
③ 1992年「プロ・アマスポーツ保護法」(Professional and Amateurs Sports Protection Act、通称PASPA法、Title 28 USC Sec 3701):
州政府がプロ・アマのスポーツを対象として賭け事のスポンサーとなったり、かかる賭け事を認めたりすることを禁止する連邦法である。但し、立法時点で既に存在していた賭け事、即ちネバダ州の許諾スポーツ・プール、オレゴン州・デラウエア州・モンタナ州のスポーツ・ロッテリーのみは例外とされ、認められた。また、パリ・ミュチュエル賭博となる競馬、ドック・レース、ジャイ・アライも例外となった為、完璧な法律とはいえない。尚、連邦司法省は、この連邦法は州が保持する連邦憲法上の権利への侵害にあたる(即ち本来連邦政府が関与すべき規範ではない)として、立法過程からこの法には反対していたという面白い経緯がある。
④ 1992年「違法資金送金業法」(Illegal Money Transmitting Business Act、Title 18 USC Sec 1960):
ライセンスを取得していない資金送金業を禁止した法律で、賭博関連決済をも含む(マネー・ロンダリング対策のために、金融機関ではない資金送金サービス業を規制する内容である)。
⑤ 1994 年「州際間賭け事関連法改正」(Amendment to the Interstate Wagering Act, Title 18 USC Sec 1301):
二つの州同志での明示的な合意が無い限り、一つの州のロッテリー・チケットを他の州の顧客に販売することを禁止するもので、ロッテリー・チケット販売のメッセンジャー・サービスという法の抜け穴により他州の顧客を募ることを禁止する法的措置でもあった。
⑥ 2000年1978年「州際間競馬法改正」(Amendment to the Interstate Horseracing Act):
州際間競馬法(Interstate Horseracing Act, Title 18 USC Chap 57 Sec 3001-3007)を改正し、電話その他の電子手段をもって州際間で行われる競馬パリ・ミュチュエル賭博を認める内容になる。これにより、競馬賭博に関しては、インターネットでの賭け事(投票)を認める複数の州の間でネットを利用した場外馬券販売による賭け事が可能になった。尚、連邦司法省は、やはりこの改定に対し反対を主張したという経緯がある。
州際間におけるマフィアの活動は70年代には、確実に収束に向かうことになった。一方90年代以降は、法律の例外項目を利用し、インターネットやICT技術を活用した様々な形での新しい賭博類型が合法的に生まれてきたことも現代社会の新たな趨勢になっている。例えば複数の州が共同して実施する広域マルチ州際間ロッテリー(勝金が高くなるため人気がでる)、インターネットを利用した競馬パリ・ミュチュエル賭博等である。