連邦「非合法インターネット賭博執行法」(Unlawful Internet Gambling Enforcement Act, 略称UIGEA法、全く関係のない港湾安全法の一部として採択された。31 USC Sec 5361-5367) とは、2006年米国連邦議会で中間選挙前会期末の最終日に可決された連邦法である。採択された法は、オンライン・ギャンブルの行為自体を禁止することを規定しているわけではなく、インターネット賭博の決済に絡む金融機関に対し、非合法と判断されるサイトに対する支払いを処理することを禁止する内容である。サイバー世界におけるサービス提供であっても、決済はバーチャルではなく、リアルな世界になることより、決済を規制することにより、結果的にネット賭博の利用を困難にさせるという考えになる。連邦司法省は過去ネット賭博を取り締まる根拠として、従前より旧態依然とした1961年連邦「有線法」(Interstate Wire Act, 公法87-216 75 Stat 491)を根拠としていた。この有線法を改正することで、ネット賭博を規制するという考えをとらず、新たな法律を設け、決済関係を規制の対象とすることで、結果的にネット賭博を締め出すという制度的枠組みを構築したことになる。法は1年以内に連邦財務省と連邦準備銀行に対し、法の施行を定める細則を定めることを義務づけていたが、2007年10月にその案が提示され、公開意見聴取を経て2008年11月12日に規則として交付された。一方、その施行には1年間の猶予期間が設定され、2009年12月末には法が施行する予定であったが、準備不足として、2010年6月末まで延長され、同年7月からようやく施行され、現在に至っている。
では実態は如何なる規制となるのか。要点は下記にある。
① 非合法のインターネット賭博に使用される特定の決済システムは、この法の範囲内で規制の対象になる。法は5つのシステムを規定(自動クリアリングハウス決済システム~ACH~、クレッジットカード・システム、小切手徴収システム、通貨送金業システム、電子送金システム)し、これらに関わる運営事業者(即ち殆ど全ての金融関連取引事業者になる)が、法律上の規制を受ける対象者になる。
② 法は、かかる特定の支払いシステムの参加者が、非合法ネット賭博に関連した取引を特定し、これをブロックし、防ぎ、禁止する方針と手順を定めることを義務づける。
③ 法が定める特定の支払いシステムの参加者に関しては、例外として、適用除外を認める(あくまでもネット賭博事業者と顧客関係を保持する金融取引者のみが義務対象者となるわけで、一般顧客に何らかの義務を課すという考えではない)。
④ この規制は、ネット賭博事業者と直接の関係を保持する金融関連事業者を一義的な責任者として、これらに対し、自らの顧客が違法ネット賭博取引に関与するリスクと可能性を検証するというデユー・デイリジェンス・プロセスを義務づけることになる。連邦規則は顧客デユー・デイリジェンス・プロセス、コンプライアンス、モニタリング手順の例を明記している。
果たして、この法がネット賭博禁止に効果があるのか否か、明確な判断基準をもって違法、合法を分けることができるのか、実効性はあるのか、効果的な法の執行はできるのかなどに関しては、立法過程から様々な議論と異論が存在した。一方、この法は、如何なるネット賭博取引も、最終的には決済関係で現実の取引となるわけであり、ここに注目し、決済に関係しうるクレジット会社、銀行、送金者、電子マネー事業者等を規制の対象とし、違法な取引である場合には、当該取引をブロックすることを当該金融機関に義務付けるという規則になる。この方針、手順を自ら定め、かつそれを実践せよということなのだが、果たしてどこまでできるのか、本当に実行性がある規制となるのか、もし見逃し等があった場合、金融機関はどこまで責任を取らざるを得ないのかなど、規則の実行性を疑問視する声もまだ多い。
もっともこの法律の本来の目的はネット賭博を根絶することではなく、これを米国市場において限りなく抑止することにあるという説もある。サイバー世界での個人の行動は国がこれを規制することは技術的に不可能に近いが、実際の金融の取引は末端ではバーチャルではなくリアルの世界であり、米国に本社、支店支社を保持する世界中の金融機関を対象として規制の網にかければ、現実問題として、ネット賭博決済に関与することはできにくくなるというのが現実でもあろう。事実、この法により、一般の米国人にとっては、ネット賭博への参加は難しくなった(勿論、個人が、第三国にオフショア勘定等を保持したオペレーションをやっていれば、法の逸脱はできないことはないが、そこまでの規制を前提としたものではないと考えられている)。一方、法施行後、現実に生じたのは、大手事業者はリスクを見越してサイトを閉鎖、米国市場より撤退し、市場は一時縮小した。但し、一時であって、様々な外国から、米国人も参加できる無数のサイトが市場に浸透し始め、混沌した状況にある。既に法制定後5年となるが、米国人によるネット賭博への参加は常態化し、無視できない規模に成長しつつある。連邦司法省は適時事業者を摘発してはいるが、法の執行は必ずしも完璧ではなく、中途半端な現実があることは事実で、違法と合法の境目は限りなく不透明な状況にあるというべきであろう。