米国におけるゲーミング賭博の法制度は、基本的にはネバダ州やニュー・ジャージー州で試みられた制度や規制の考え方が一つの規制モデルとして、その基本的な考え方が様々な州や国により模倣され、定着したものである。勿論、個別の州や地域では、環境や状況が異なるために、その特性や事情に応じてこれらが、修正され、変容し、現在に至る様々な規制モデルを構成している。
個別の規制モデルに関しては、様々な相違点があるとはいえ、共通的な事項も多い。この共通的な考え方は下記等にある。
① ライセンス(免許)制:
適格性を保持した民間主体(個人、法人)に対し、規制機関が取り消し可能な免許(ライセンス)を付与し、一定の条件を満たすことを前提に施行を認めたり、業への参加を認めたりすることが基本的な考え方になる。ライセンスは申請者の申請に基づき、申請者の適格性を審査、評価した上で付与されるが、厳格なハードルが設けられる。また、例え付与されていても、一定の要件を満たしていないと規制機関が判断する場合、ライセンスは、停止ないしは剥奪される。この意味では免許(ライセンス)は所有権を構成せず、譲渡不可でもあり、規制機関の判断による一方的な停止、はく奪に対し、法的な救済の措置はない州も多い(この点、他国の制度とは大きく異なる)。
② 許諾対象範囲の広さと深さ:
許諾の対象が広く、かつ深いことも共通点となる。施行を担う主体の一定率(通常5%~10%)以上の発行済み有効議決株式を保持する株主、経営者、管理職、全ての従業員、関連するサービス事業者およびその役員、職員、機械・器具の製造家、流通・販売業者、その他ゲーミングに直接的、間接的に関与する個人・法人の過半が、免許(ライセンス)ないしは許諾の対象になる。また、規制機関はこの範囲を任意に追加できる。尚、ゲーミングに利用される器具、機械、システム等の製造、販売、使用等も全て規制機関の認証の対象となる。その他、カジノの運営等に関しては、詳細な行為や手順等も含めて全てが認可・認証の対象になる。
③ 独立性を保持した規制機関の創設:
州の規制機関は、立法府、行政府の影響を受けない独立した行政上の地位を保持した存在とすることも共通である。その業務は、法を所管し、法の施行を監督する業務を担い、詳細規則を制定すると共に、施行を担う主体、関連する主体の免許申請の審査、妥当性判断、当該免許の付与、拒否、停止、はく奪等になる。この規制機関は異なった分野の専門家である有識者からなる行政委員会を基本とすることが多い。
④ 規制機関の準司法的な権限と機能:
免許(ライセンス)の付与、拒否、停止、はく奪に係る不服等は規制機関に対してのみ提訴でき、規制機関はかかる提訴に答え、準司法的な権限と機能を担うことが多い。また、法、規則等の違反行為などは、法の執行を担う機関が摘発、提訴を担い、その判断、罰則、罰金の適用等も、規制機関の専権となることが通例である。
⑤ 調査・監視・摘発を担う法の執行機関の任命:
法並びに規則等の遵守を監視し、法を執行する機関を上記規制機関とは別に設けたり、あるいは既存の警察機構の一部をこの任にあてたりすることが通例である。この機関は規制機関を補佐し、免許(ライセンス)申請者の資格要件等を背面調査、審査することにより、その可否を規制機関に推奨すると共に、施行を監視し、違法行為を摘発する。
⑥ 規制機関と公安・警察当局との権限・機能の分離:
規則を定め、法の施行を担う州政府の規制機関と違法行為を監視・摘発し、法の執行を担う機関の機能、役割は峻別し、お互いを拮抗させ、権限を分散させることが通例となる。権限が集中することによる権限の濫用、汚職、腐敗等を防止するための配慮である。
⑦ 政策諮問委員会の創設:
賭博施行に係る方針の諮問を受け、知事を支援し、賭博政策に対し答申するために、別途、政策審議のための行政委員会を設けることがある。但し、法律上の権限はない。政策立案と規制や法の執行という役割を峻別する考え方になる。
機能や基本となるパターンは米国各州同一であるといえるが、行政機構の在り方、規制機関と法の執行を担う機関の在り方(機能、権限、組織、体制)などは、個別の州の事情に即して、一部詳細を変えていることが多い。この意味ではネバダ州やニュー・ジャージー州の法制度や規則はその他の地域や他国により、参考にはされたが、これがそのまま他の地域や他国により模倣されたわけではない。