連邦先住民部族によるゲーミング賭博は、当然のことながら、連邦先住民ゲーミング規制法(IGRA)に基づき、先住民部族が占有し、保有する土地(居留地)においてのみカジノの施行が可能となる。この部族が保有する土地とは、制度上の定義としては、①居留地内の土地であること、②部族の為に連邦政府が信託に供した土地であること、③部族が所有する土地で、連邦政府規制の範囲内で、実行支配権を持っている土地であることとされ、IGRA法制定(1988年10月17日)以降に部族が取得した土地は対象とはしないことという建前であった。建前と書いたのは例外規定が設けられているためで、①連邦政府が新たに認知する部族にとっての最初の居留地、②土地係争の結果部族が新たに取得した土地、③連邦政府が別途修復された土地として認知した土地(部族が歴史的な経緯に基づき法的な所有権を主張し、政府が関与することで部族の占有権が修復した土地)、においては例外的に可能となり、かつこれら三つの条件を満たさない場合でも、①連邦内務大臣による認可、並びに②関連州知事の同意があれば、部族がゲーミングを予め定められた居留地外で施行することは可能という規定となっている。かなり甘い例外規定が存在することになるが、この最後の規定を根拠とし、部族が何等かの手法で居留地外の大都市近郊により有利な土地を取得し、この土地を連邦政府による信託の対象とすることにより、その場所でゲーミング・カジノを施行することを「居留地外ゲーミング」(Off Reservation Gaming)と呼称している。
いうまでもなく米国先住民居留地区とは、大都市から離れた辺鄙な僻地に押し込められて設定されていることが殆どであり、たとえカジノ施行が認められても、アクセスや利便性の悪い場所では、本来集客力はあまりなく、施設規模も、売上も大きなものは期待できない。ところが、もし、他に競合主体の無い、大都市や大都市近郊に先住民が土地を取得し、関連許可を取得することができ、カジノ施設を設けることができうれば、確実に成功するカジノ施設を実現できることになる。ここから、様々な理屈をもってより有利な土地を取得し、これを供託地とするよう連邦政府に働けかけたり、既存の居留地外の大都市近郊の土地を対象に、新たに連邦政府の信託対象とするよう要請する等様々な動きが一部部族に生まれることになった。認可さえ取得できれば、確実に金になることは明白であり、中には白人企業やデベロッパーと結託して、かなりいかがわしいへ理屈を持ち出したりして、連邦政府申請がなされたこともあった。このような動きは「居留地ショッピング」(Territory Shopping)と呼ばれた。法律上はなんでもできる規定の様に思えるが、そんなに単純でないのは、IGRA法が制定されてから23年間、2011年夏までの段階で、この例外規定が認められたのは僅か5部族だけでしかない。一方、2008年1月連邦内務省は、この問題に関し、手続きを透明化するためのガイドラインを公表し、4つの手順が定義された。即ち、①部族による内務大臣への書面による申請、 ②内務大臣による利害関係者ヒアリング、③内務大臣による判断、④知事への通知と知事による同意である。大きな問題となったのは、大都市近郊住民にとってみれば、ある日突然、先住民部族の居留地が市内にでき、そこにカジノ施設ができてしまうことになる。この場合、施設周辺の環境や、地域住民や地域社会への悪影響をどう措置するのか、たとえ居留地外(Off Reservation)であっても居留地からあまりにも離れすぎているのは非現実的ではないかというものであった。
ところがこの問題は、政権交替が実現し、民主党オバマ政権になってから、より緩やかな判断により部族主張を認めようとする方向に舵が切られた。2009年1月に新たな方向性が示され、2011年6月に内務省は従来のガイドラインを廃止、新たなガイドラインを設け、実質的な認可のハードルを下げる措置をとった。この結果、2011年の後半3ヶ月の間にこれまで認められてこなかった3つの居留地外先住民部族カジノが連邦内務省により認められることになった。もちろん、この後、関連する州知事の同意が必要で、知事同意取得後、再度連邦政府内務省から土地の信託を受ける手続きが必要になる。この内、二つはカリフォルニアの部族になり(Entreprise Ramcheria及びNorth Fork Racheria),2012年9月にカリフォルニア知事はこれらを認めてしまった。今後紆余曲折もあると想定されるが、居留地外ゲーミングが認知されつつある方向性は変わらない模様である。また、今後雨後の竹の子のように、居留地外ゲーミングの申請が部族により、連邦政府になされたり、様々な訴訟が起こるのではないかとも想定されているが、状況はいまだ定かではない。
但し、連邦政府は明らかに制度の解釈を緩やかにし、居留地外における先住民部族によるゲーミング施設の設置を条件次第で認める方向にある。果たしてこれが適切な考えか否かは優れて政治的な判断でもあり、今後いかなる展開となるかは必ずしも明らかではない。