2008年から2009年にかけてのリーマンショックを発端とする世界経済の落ち込みは、観光・エンターテイメント産業にも、様々な影響を及ぼすことになった。賭博税収が一般会計や特別会計の中である程度の重要な比率を占め、財政均衡主義をとる米国の諸州では、税収減に伴う歳入欠陥を埋めるために、賭博関連税収を増やす様々な施策が2009年以降とられた。経済危機や歳入不足は、為政者や議会の施策方針や考え方を大きく変えてしまう傾向がある。この結果、米国の東部、中西部の諸州を中心に、(1)今まで議論はあっても、認められなかった賭博類型が認められたり、(2)伝統的な考え方では、ちょっと考えられない賭博規制のあり方等が認められたりしつつある。 例えば、賭博機械だけを設置することが認められていた施設に、テーブル・ゲームを導入しようとする考え等がこれにあたる。やはり機械だけでは遊興施設の魅力に欠け、収益・税収も限定されることから、人間が介在するゲームを入れることにより、確実に集客と利益・税収が増えるメリットを期待できるとする考えでもある。規制が単純な機械ではなく、デイーラーを介在した賭博行為を新たに導入することは、当然、賭博に関する管理や規制の仕組みの前提が大きく変わることを意味し、制度改定が必要になる。場合によっては、住民投票によりその是非が問われることになる。これを「テーブル・ゲーム・レファレンダム(直接投票)」(テーブル・ゲーム設置許諾)と呼称している。
注目すべき点は下記等になる。
① レイシーノ(Racino)にテーブル・ゲームを設置する許諾:
レイシーノとは、既に説明した通り、競馬場に、スロット・マシーン/ビデオ・マシーン(実態はVLT)施設を併設して設置する複合的なエンターテイメント施設である。実態は競馬場に来る顧客がVLTをも併用して遊ぶという側面は限定され、スロット・マシーンのみを遊ぶ顧客をここに新たに引き付けることになる。所謂カジノ施設が近隣にない地域において新たな、かつ簡易な賭博行為を提供することになり、結果的に新たな顧客層・需要を生み出し、施設全体として大きな収益をもたらすに至っている。VLTの場合、全ての機械端末はシステムとしてオンラインにより規制当局にリンクし、管理も規制も極めて簡素化した中で、機械ゲームを認めるという内容となった。この機械ゲームのみを前提としたレイシーノに、テーブル・ゲーム設置を認めるという制度改定が、一部の州でなされた。これは実質的にレイシーノをミニ・カジノ化する考えに等しいといえる(ペンシルベニア州、デラウエア州、西バージニア州、メリーランド州等でこの制度化が実施された)。
② スロット・カジノないしはVLT専用カジノにテーブル・ゲームを設置する許諾:
上記と同様に、一部の東部諸州では、スロット・マシーン(VLT)専用カジノという施設が過去4~5年の間に設置された。一種のスロット・パーラーとでもいえる施設で、レイシーノと同様に、VLTのみを設置し、簡素化された規制当局によるオンライン監視などの制度的考えは全くレイシーノと同一である。ここでも、収益拡大、顧客ニーズへの対応を目的として、かかる施設にもテーブル・ゲームを設置する法案や住民同意取得が一部の東部諸州で実現した(ペンシルベニア州)。これも実態面ではフル・カジノに限りなく近くなる施設になっており、電子機械ゲームから始め、テーブル・ゲームを設置することで、機能的には通常の陸上設置型カジノと変わらない施設となりつつある。
③ パリ・ミュチュエル賭博の規制・監視主体がテーブル・ゲームの規制主体に:
所謂VLTは、その形態は、優れてスロット・マシーンに近いのだが、機能的には個別機械に乱数発生器はなく、集中的にサーバーが当たりを決めるという意味で、ロッテリー賭博の端末に近いという考え方が、制度や規制の基本的な考え方になっている。これが為に、規制当局によるオンライン、集中管理が全ての原則で、既存のパリ・ミュチュエル賭博の規制主体が、VLTの規制をも担ってきた。これはこれで合理的なのだが、一方、バンキング・ゲームとなるテーブル・ゲームを新たな賭博種として追加する場合であっても、同じパリ・ミュチュエル規制主体が(即ち、ロッテリー委員会、もしくは競技委員会である)管理監督を担うという新たな規制モデルが生まれつつある。
人間が関与するバンキング・ゲームは、単純なシステムの端末ともいえるVLTとは管理や監視のあり方は大きく異なる。電子式機械ゲームは、その運営や規制は限りなく透明化されつつあり、規制の内実そのものも、かなり簡素化されている。この結果、VLTや機械ゲームに関して言えば、不正やいかさまが生じる可能性は限りなく限定され、健全な賭博を簡易に提供する制度や仕組みができあがりつつあるといってもよいのかもしれない。一方、ここに極めて異質なテーブル・ゲームを導入するということは、施設の魅力増、顧客増、収益・税収増というメリットをもたらすかもしれないが、VLTと同じアプローチでテーブル・ゲームを監視・監督することには、かなりの無理がある。考え方次第では、規制や監視の考え方が甘くなるリスクも存在するが、上記趨勢は、技術の進展に伴い、新しい規制モデルや規制のあり方が、志向されてくることを示唆しているのかもしれない。