2008年~2009年はリーマン・ショック以降の経済不況により、ネバダ州の賭博売り上げ・観光収入および税収は、歴史的な減少に直面し、この結果、様々な課題が浮かび上がってしまった。ネバダ州の一般歳入の約60%以上がギャンブル関連税と売上税に依存している。即ち課税対象範囲(Tax base)が極めて狭い歳入構造になっており、あまりにも一つの産業に依存しすぎているという特徴がある。過去は持続的成長が長期に亘り継続し、税収も毎年増えて全く問題はなかったのだが、ゲーミング産業の売上が極端に減ると、歳入欠陥が生じてしまう。これが2010年に生じる可能性が高くなったのが2008年から2009年前半の認識でもあった。当時最悪の場合、30%の歳入欠陥になりそうとの予測も出され、状況次第では、全米で最大の歳入欠陥になる模様との観測もなされた。この結果、様々な影響が生じた。例えば州の教育システムの運営費の70%は州政府補助金を前提としている。2000年から2007年まではギャンブルに伴う税収がこの間42%も増大、教育に関する支出も補助金もそれに応じて高目に推移し、教育システムは単純な形では費用縮減ができない硬直的な支出構図になってしまっていた。この状況では、突然税収・歳入が減少する場合には、これに連動して直ちに教育費を削減できなくなってしまうことになる。
かかる事情により、何とネバダ州教育協会(Nevada State Education Association)は2008年より、国内でもっとも安いギャンブル関連粗収益税率を上げるべきとする政治運動を開始、業界が反対するという事態にまで発展した。ギャンブル税率を上げる法案に住民や州民が反対する余地は少ないのだが、もしこれが成立するとすれば市場構造そのものが変わってしまうことになる。議論の結果、結局ギャンブル税(粗収益課税)の増税ではなく、ホテル宿泊税を増税することで2009年3月に政治的妥協が図られた。宿泊税は、顧客にそのまま転嫁されるため、業界には直接負担はないが、消費そのものを縮小化する可能性があることは間違いない。
ネバダ州税の上記状況は米国の他州にも類似的な現象を引き起こしたが、一般論として下記課題を提示しているといえる。
① 歳入の主要部を単一産業に依存する場合、この産業の動向、趨勢、今後の事業の見通しと発展次第では、上方展開ならよいが、下方に陥る場合、歳入欠陥が生じるリスクが高くなる(財政構図としては極めて脆弱になり、リスクが大きい構図になってしまうことを意味する)。
② 財政規模が大きくなり、支出の重要部を特定産業からの特定税に頼ることは、景気変動に伴う歳入変動のリスクが大きくなってしまうことを意味する。この問題が何ら検討されずに放置されたのは、過去数十年間に亘り、ラスベガス、ネバダ州の賭博関連売り上げ並びに税収は右肩上がりの成長を継続し、一年間の間に十数%も歳入が下落するという事象は想定できえなかったからである。
③ 歳入欠陥の場合、既存の支出をカットするか、あるいは増税し、欠陥を埋めざるを得ないことになる。州民の生活に直結した義務的経費を削減することに対しては、州民の反発は極めて強い。一方、ギャンブル関連税を上げることは、事業者にとって致命的なインパクトを与えかねないが、住民・州民にとっては、許容できる可能性が高い。(自分の懐が痛む増税ではないからである)
④ 根本的な課題としてはやはり課税対象範囲(Tax base)が限定されているという事実は、地方政府自体の財政構造を危うくするリスクがあるといえる。ゲームの売り上げに対する課税に過度に依存することなく、多様な税金捕捉の手段があった方が財政的には、安定する。
州によってはネバダ州がかかえるこのような潜在的リスクを予め配慮して制度設計をしたところもあり(ニュー・ジャージー州)、これは米国においてはネバダ州が突出して抱える問題と判断することが適切かもしれない。もっとも、ゲーミング・カジノだけではなく、ロッテリー賭博やその他の賭博収入であっても、問題の本質は同じである。ロッテリー収入や競馬等の遊興賭博関連税が特定の歳出財源にリンクしている場合等に関しては、売上が生じた場合、歳入欠陥の可能性もおこりうることから、これに伴う何らかの増税措置、一番単純なのは賭博行為そのものの増税が考慮されているのが現実である。