規制と法の執行が一部オーバーラップする側面があったことがニュー・ジャージー州のゲーミング・カジノの管理監視体制の特徴でもあった。但し、実際の施行は順調に推移したため、そこまで輻輳化してチェックする必要があるのかに関しては、長年の間、様々な関係者より指摘されてきた課題でもあった。その後ゲーミング・カジノ法制を創設した様々な州や他国では、ここまでの二重ワークは実施していないためでもある。ニュー・ジャージー州以外では、法の執行部隊には人間を割き、相対的に大きな組織とするが、規制当局自体は、スリムな体制にすることが一般的となっている。2008~2009年のリーマン・ショック以降の不況に伴い、ニュー・ジャージー州でも州全体の観光収入が減少するとともに、ゲーミング税収も減少した。一方ではフィラデルフィア州、バルチモア州、メリーランド州、バージニア州、ニューヨーク州等、ニュー・ジャージー州の近隣諸州でレイシーノ(racino)やスロット・カジノ、本格的カジノ施設等が登場し、これら諸施設との競争が激しくなったことにより、アトランテイック市を訪問する顧客数が年々減少し始めた。当然、カジノ関連税収も低迷する状態に陥ってしまった。ゲーミング・カジノの地域独占性が実質的に崩れ、州単位で顧客の争奪が生じたとともに、ハイエンドの顧客(VIP)を集客する魅力が欠如してきたことがその原因でもある(2010年には様々な理由から5つのカジノ事業者の所有者が交替するという事態が生じ、更なる混乱を招いてしまった)。
競争的対抗手段の一つとして、既に旧態依然となってしまった制度の在り方を変え、制度の厳格さに関しては、妥協することなしに、より効率的に、かつ費用のかからない現代的、合理的な規制や監視の在り方を志向すべきという声が議会で強まり、カジノ管理法の大幅改定が2010年末法案S-12号として議会に提示され、2011年2月1日に成立した。より簡素化した組織で問題なく規制や監視を実施している他州に比較すると、リダンダントな制度を維持する場合には、市場における競争力も保持できなくなるという大きな理由があった。これにより、規制機関と法の執行機関の在り方が大きく変更することになった。
主たる改定内容は下記の通りである。
① カジノ管理委員会(CCC)からゲーミング法執行局(DGE)への大幅な権限と業務の移譲:
法の全般的施行責任はカジノ管理委員会の所掌であったが、これを改定し、委員会の所掌を限定的にし、規則を制定し、法・規則を執行する権限は法執行局(DGE)に移管することになった。委員会の規則制定権は、自らが主催する公聴会に関するものに限定された。結果、実務上は規則制定、監視、法の執行は一元化し、DGEが全ての権限をもって統一的に担うことになり、規制機関とのダブルワークは一切排除される仕組みになったといえる。
② カジノ管理委員会(CCC)の組織の簡素化、日常業務のゲーミング法執行局(DGE)への集中:
カジノ管理委員会は、委員が5名から3名に縮小された。カジノ運営ライセンス付与並びに主要管理職員のライセンス付与、停止、剥奪等の最終権限は依然委員会のものだが、その役割は準司法パネル的なものに限定された。これにより、委員会(CCC)が従来担ってきた日常的なカジノの規制、監視業務はその総体が法執行局(DGE)に移管され、一元化されることになった。尚、従来法執行局(DGE)が自ら担ってきた申請者の背面調査は民間の第三者の調査機関等に委託することも可能になった。実態に合わせて、管理組織をスリム化するということになる。
③ ライセンス関連手続き・要件等の簡素化:
申請要件に関する様々な規制緩和が図られた(例えば、土地・ホテルリースに関する厳格な期間要件を緩和すること、事業者評価基準を簡素化すること、申請時に警備監視・管理システム等の開示を要求することは不要にすること等)。他州と比較し、要件が厳格である場合、事業者の意欲を削ぐ結果になることより、規制の厳格さを損ねない範囲で、不要な規制等を緩和したことになる。
2012年段階では旧体制からの移行期間にあたり、規制機関や法の執行を担う組織の実態がどうなったかに関しては、詳細情報は必ずしも開示されていない。但し、明らかにカジノ管理委員会(CCC)の組織はスリム化され、実務部隊はDGEへの実質的一本化がなされ、他の州と同様に簡素化した規制体制になったことは間違い無い。ニュー・ジャージー州の規制モデルは、制定時には合理的であったのだが、既に時代の流れについていけない制度となっていたのであろう。このため、従来の規制機関と法の執行機関が並列的な関係で対峙する構図は崩れ、単層的、包括的に法の執行機関が規制の実務をすべて抑え、その上に規制機関が位置するという仕組みになったことになる。