カルフォルニア州では歴史的に賭博行為は存在したが、1997年までは実質的に規制無しの状態に近かったともいえる。1997年、賭博管理法(Gambling Control Act)が制定されたが、この法律は商業的賭博となるカジノを認める内容ではなく、対象となったのは、あくまでも小規模でなされる賭博行為であるカード・ルームや、連邦法に基づく先住民部族カジノの規制でもあった。カルフォルニアでは、連邦法に準拠する形で、2000年3月の州民投票1A提案により、州憲法を変え、州内の先住民部族に対し、州政府との協定(コンパクト)締結を条件にクラスIIIのゲーミング賭博施設(カジノ)を先住民居住区に設置することが認められた。これに伴い、2012年の現時点までにカリフォルニア州には、91のカード・ルームと59の先住民部族との協定による60のカジノ施設が存在する。先住民部族カジノの施行規模、施行数いずれも全米の中では際立った存在であるといってもよい。所謂、商業的カジノ賭博施設は州内には全くないが、部族カジノは数多く、制度や規制は専らこの部族カジノ対応に向けられているというのが現実である。この意味では極めて特異な制度ともなっている。州財政のひっ迫により、前シュワルツネッガー知事は、財源確保の為に更なる部族カジノ設置や既存施設の機材増加等を認める施策を実施し、この政策は現在でも継続され、カリフォルニアは一大部族カジノの州となっている。
部族カジノは州政府との協定に記載された権利義務関係を根拠にその規制や監視が実施されるが、現実の顧客は普通の州民であり、かつその委託運営事業者、従業員、機材納入業者やサービス関連事業者なども通常の米国人、米国企業である。一方、施行の公正さを担保し、清廉潔癖性を保持する規制と監視はかなりの実務を必要とし、部族のみでは能力が不足し、連邦政府にかかる実務を期待することもできない。そこで州政府が、一定の規制と監視の枠組みを分担して担うことこそが合理的になる。規制機関となるのは、上記法令に基づき設置された州政府機関としての「カリフォルニア州賭博管理委員会」(California Gambling Control Commission)である。この委員会は、知事より任命される5人の委員で構成される行政委員会であり、その権限は下記になる。
① 運営に関する詳細規則制定、最低必要な技術標準等の策定、
② 部族が担う施行に関与する関連主体に対するライセンスの審査、付与(主要従業員、職員、納入業者、サービス提供者、融資主体等)、部族に対するこれら主体の適格性推奨、
③ ライセンスを申請し、取得し、保持する主体の財政状況等のチェック、
④ 使用されるゲーミング機材・システム等の認証、
⑤ ライセンス料等の賦課・徴収、
⑥ 部族間に差異が生じ無い様に、部族間におけるゲーム機械数の適切な配置とその維持、
⑦ 税の徴収(スロット・マシーン粗収益の一定率で額に応じて10%~25%)、また、総粗収益の2%を別途徴収し、州の責任で、賭博行為に従事していない部族に対する収益の均てんを図るために設置された部族間利益配分信託基金(RSTF) の信託人としての機能。
⑧ 賭博依存症等への対処方策、
⑨ 議会に対するアドバイス、報告等。
規制の内容、レベルはあたかもカリフォルニア州において商業賭博が施行されているのと変わりない程度のものである。また、政策的に部族間に不公平感が出てくることを防止するため、州政府が介在し、一定の収益を全部族に均てんする考え方が実施されていることが特色となる(それだけ部族数が多いことを意味する)。
法の執行は、州政府司法省に設置された「賭博管理局」(Bureau of Gambling Control)が担い、賭博管理委員会の要請を受け、ライセンス申請者の背面調査、実質審査と規制機関に対する可否の推奨、施設の監視、犯罪調査、違法行為の摘発などを担当する。実質的にはこの局は警察機構の一翼になる。
カリフォルニア州では、州政府と部族間の間には権限に関する長い争いがある。州政府は明確に規制を貫徹させようと厳格なスタンスを取るが、部族は連邦法上の主権を主張し、これに反対するわけで、現状の制度は部族と州政府との妥協的な側面が強い。部族カジノの管理監視手法は州毎に異なるが、カリフォルニア州の場合、他州の部族カジノの管理・監査と比較すると、州政府の関与は遥かに強いと考えられる。2012年のコンサルタント(Beacon Economics)による調査では、同州における部族カジノの経済効果は75億㌦相当の産出効果(直接消費35億㌦、二次的消費40億㌦)、5万2000人の雇用(直接雇用3万人、間接雇用2.2万人)、州政府・地方政府の総税収4.67億㌦(直接税収2.2億㌦、間接的税収2.47億㌦)に達するという。