ペンシルベニア州は2004年の法律によりまず既存の競馬場に併設されるスロット・マシーン・カジノ(いわゆるレーシーノ)の設置を認め、その後2010年になり、同じ施設においてテーブル・ゲーム設置を認めており、段階的に実質的なカジノとなる施設を認めるという面白い施策をとった州である。2004年の法律は「競馬開発及びゲーミング法」(Racehorse Development & Gaming Act of 2004)と称し、州内に14のスロット・マシーン運営事業者を認めるもので、内7つは既存の競馬場(第一分類)、5つはスタンドアローンのスロット・カジノ施設(第二分類)、2つはホテル・リゾート併設スロット・カジノ(第三分類)という内容でもあった。最初の施設は2006年に開業され、2010 年以降、テーブル・ゲームが認められるに至り、これら施設は実質的なカジノ施設となってしまっている(2012年までに10施設が開業している)。制度的には、厳格なライセンス(免許)制度が設けられ、規制と監視の在り方に関しては、他州の制度と内容的に大きな差異はない。但し、ゲーミング・カジノに係わる行政組織の在り方やその機能は、ペンシルベニア州では、伝統的なカジノ規制の在り方とはかなり異なる特徴を保持している。マフィアの影は現代社会ではほぼ一掃されており、不正を防止し、健全なゲームを提供できる環境は従前とは比較にならない程改善されている。この考えに立脚し、規制や監視の組織をより合理化・簡素化している点にその特徴がある。
このペンシルべニア州の組織の特徴は下記諸点等にある。
① 2004年法に基づき規制当局となるPGCB(「ペンシルベニア州ゲーミング・コントロール・ボード」(Pensilvaia Gaming Control Board, PGCB)が設立されたが、組織としてのPGCBは州政府の賭博許諾に関する規制及び監視を担う一機関でもあり、行政府や立法府から独立した存在として位置づけられているわけではない。
② 規制機関と法の執行機関を拮抗する形で対峙させることなく、一つの行政機構の中で、規則制定、ライセンス申請受付・審査・付与、調査・監視、違法行為摘発等の全ての機能を処理できる形をとる。その意味ではピラミッド型の単一組織が規制と監視・法の執行を担い、関連しうる省庁である、州歳入庁、州警察、司法庁はこれに協力する形をとっている。
③ 組織的にはPGCBは議長1名、委員6名で構成され、3名は知事、4名は議会の指名となり、検事等の行政官や弁護士等が起用されている。一方議決権はないが、州財務長官、農務大臣、歳入庁長官はこのボードの構成員でもあり、州政府自体が法の施行に強く関与する組織体となっている。このボードの配下にある実務部隊はその執行役員(Executive Director)がこれを掌理し、全ての機能は行政的には彼の下にある。一方、調査・法執行に関する部局は、PGCBとは機能的に分かれた権限・役割を担い、違法行為摘発の権限等を保持する。行政的には一つの組織とし、機能を峻別する部局を内部に保持していることになる。また興味深いことにこの行政組織内に、「脅迫的賭博・賭博依存症事務所」を保持し、州政府が主導権をとり、関連民間事業者を組成し、賭博依存症問題への対応や措置に関する政策を担っている。単純に民間施行者に委ねることなく、民間事業者の行動を調整するとともに、政府自らが問題解決のためのイニシアチブを取っている点が他州とは異なる特徴になる。
④ 税率はかなり高く、スロット・マシーンとテーブルは別税率になる。スロット・マシーン粗収益に対しては、55%の課税となり、内34%は州の特別会計となる州ゲーミング基金に、12%は競馬産業に、5%は州経済開発に、4%は地方政府に分配される。一方、テーブル・ゲームに関しては粗収益に対し16%が課税され、内14%は州一般会計に、2%は地方政府に配分される(州にとっての税収は資産課税を減税するための財源、市町村では所得課税減税のための財源とする旨の法規定がある)。
⑤ PGCBの全ての会合・公聴会等はネットにより中継、また全ビデオ記録を公表しており、州民に対する情報公開度や透明性は極めて高い。単一組織、簡素化したモデル、徹底的な情報公開による透明化等、規制の分野でも新しいトレンドが生じつつあると判断すべきであろう。
尚、興味深いことに、ペンシルベニア州では、当初5つの第二分類ライセンスを予定し、二つのスタンド・アローン型カジノ施設事業者にライセンスが付与されたが、内一つの事業者であるコネチカット州の部族カジノ資本フォックスウッド・グループは、おりからの金融危機に際し、施設整備の為のファイナンスを組成できず、2011年12月にPGCBによりライセンスを剥奪された。2012年秋、PGCBは新たな公募によりこのライセンスを売却することを考えているが、まだ実現していない(最低価格は6500万$、市場価格でライセンスを売却するという試みになる)。
このように、近年の米国における兆候は、単一行政機構による簡素化した規制モデルが定着しつつある。隣接するオハイオ州、メリーランド州も、同時期にゲーミングをより積極的に認める政策に転換している。これら諸州は競合しつつ、市場のパイの拡大に貢献しているが、類似的な簡素化された考え方をベースにその制度や規制の在り方の設計がなされていることが現実である。