米国における賭博規制は、州毎に、また賭博種毎に個別の制度と規制機関が存在する。賭博種毎に、各々認められるに至った異なった歴史的経緯がある為にこうなったものである。基本的には①賭博種毎、大きく分けると、競馬(ベッテイング)、ロッテリーくじ、カジノ(ゲーミング)の三つに分類され、②この各々に制度と規制機関が個別に存在し、③行政委員会方式による免許(ライセンス)や規制・監視の仕組みを取ることがこれら全てに共通的な考え方ともなっていた。但し、実態は、これらの中間的に分類される新しい賭博種等に関しては、州毎に所管する規制機関が異なる場合等もあり、必ずしも一貫性のある制度ではなかったのが現実である。これがため、制度が現実に追いついていけず、大きな矛盾を内在しながら、類似的な業務をバラバラにこなしてきたといっても過言ではない。ところがようやく、これら異なった賭博種の規制の在り方を統合・統一化し、単一の制度、単一の規制機関のもとに、賭博制度自体を簡素化、合理化し、一貫性のあるものにしょうとする動きが一部州で生まれつつある。
ニューヨーク州では「競技賭け事委員会」(Racing & Wagering Board)が競馬、及び場外馬券販売、ビンゴ・ホール、慈善団体による賭博、部族カジノを規制し、「ロッテリー委員会(Lottery Commission)が州の行政機構の一部である「ニューヨーク州ロッテリー局」(New York State Lottery Division)が主催するロッテリーと競馬場におけるVLTプログラムを規制するという二つの賭博の規制組織が存在していた。
この競技・賭け事委員会(Racing & Wagering Board)は、知事による指名、議会(上院、下院)による認証を得た3名の委員で構成され、6年の任期、内1名が知事により委員長に指名される。1973年までは競馬種ごとに何と4つの規制委員会が存在したが、1973年にこれらが統合され、上述した委員会となったものであり、全ての競馬に関する一般的な規制・監視権、全てのパリ・ミュチュエル賭博(オントラック、オフトラックを含む)の規制監視を担い、1970年には地域コミュニテイーによるオフトラックベッテイングも所管となり、1977年からはビンゴ監督委員会も統合し、1993年には先住民部族カジノの規制も対象となった。
一方、ロッテリーは、1966年州民投票により可決され、1967年から運営が開始された。1967年以降、州政府の税・財務局の一組織として実際の主催者となる「ロッテリー局」並びに関係者を規制するロッテリー委員会(Lottery Commission)が設けられ、これらがロッテリーゲームを主催、所管・規制すると共に、NY州の競馬場に設置されたVLTカジノをも規制していた。
この様に、競馬を規制する規制機関が先住民部族カジノをも規制したり、ロッテリー委員会・ロッテリー局がスロット・マシーンと同様の機能を持つVLTを規制したりと、類似的な機能でありながらバラバラの規制がなされているということは、極めて理解しにくい仕組みであったことになる。2012年初頭ニューヨーク州知事は、これら異なる賭博規制組織を統一化、単一化することを表明、議会と制度を再構築することに合意した。 法案は同年3月に2012年州予算法案の一部として議会に上程、可決され、2012年10月1日から施行されている。この結果、上述した二つの既存の賭博関連規制組織を統合し、新たに「ニューヨーク州ゲーミング委員会」(New York State Gaming Commission)が創設された。以後、この委員会が同州における、ロッテリー、ビンゴホール、慈善団体による慈善ゲーミング、先住民部族カジノ、競馬、競馬場におけるビデオロッテリーターミナル(VLT)を包括的に規制している。また個別の賭博種の収益を管理する特別勘定もバラバラに存在したが、一体的管理がなされることになった。
新たな行政委員会としてのゲーミング委員会は、7名の委員から構成され、内、5名が知事による指名、1名が下院代表、1名が上院代表による指名となる。一方、議会は同州において先住民部族カジノではないラスベガススタイルの商業的カジノを7施設認めるための法案上程手順に入っている。州憲法を変え、新たに商業的カジノの設置を認めるという野心的な内容になるが、ゲーミング委員会の設置はこれを実践するための布陣でしかないという側面もあるようだ。もっともこれが法律になるためには、再度議会が州憲法改正に合意し、かつ住民投票を経る必要があり、単純に実現できるか否か、またカジノの免許(ライセンス)がどの様に付与されることになるのか、規制機関の権能はどう整理されているのかに関しては、未だ不明の部分が多い。
過去、米国諸州の制度には、政策の在り方と実際の規制の在り方に関し全般的な調整の枠組みが存在せず、政策と実務がバラバラに進行してきたという事実があった。これでは、効果的、効率的な規制は実現できないことになり、この矛盾を是正し、複数の規制機関を一つの監視規制機関に一元化する試みが様々な州で実現しつつある。包括的な権限を単一機関に委ねることにより、規制と監視の効率を上げ、費用を縮減し、リダンダンシーを排除できる。統合化・統一化は今後一つのトレンドとして米国各州で試みられることになると思われる。