カナダのオンタリオ州では、公的部門がカジノのオーナーシップ(所有権、施行権)を保持する事業モデルが採用されている。但し、あくまでも政府から責任を分離した存在としての公であり、独立した商業行為を担う州政府が所有する公社(「オンタリオ・ロッテリー・ゲーミング会社」~Ontario Lottery & Gaming Corporation~OLGC)法的には州政府の機関、エージェンシーとなる)が施行主体となる。また、施行する権限は公的主体にあるが、現実的には民間主体に開発や資金調達、施設整備等を委ね、更に、当該施設の運営を委ねるという民活を前提とした手法をとることが通例である。この意味では米国先住民カジノの事業モデルに類似的な側面がある。このオンタリオ州のモデルはハイブリッド・モデルとも呼称されているが、下記側面が特徴となる
① 官民による契約に基づく役割と責任の分担が基本:
公社が民間主体を公募で募り、選定し、カジノ及び関連施設の開発、資金調達、施設整備及び維持管理・運営を当該民間事業者に包括的に委ねるという形式をとる。当該施設の所有権は完成後、公的主体に譲渡され、民間主体は別途当該施設を借り受け、一定期間運営を担い、予め定められた一定の報酬を得るという考えになる(事業者が無形資産としての運営権を得て、これを償却するか、あるいは公社が所有権・償却権を得て、事業者は、建設代金を別途公社から受領するという二つの手法がある)。運営上のキャッシュ・フローは全て公的主体に帰属する。公的主体は費用控除前に売上額の一定額を先取りし、民の運営費用、(民が償却を担う場合)減価償却相当分、フィー等を支払った後に、残った収益も公的主体が収受する仕組みである。この仕組みのポイントは公的部門が最大のカジノ収益を享受できるということにあり、超過利潤を公的部門が独占できることを意味する。民間事業者もリスクがあり、投資も必要で、一定レベル以上の配当は当然期待できるし、ボーナスもあるが、超過利潤をとることは難しい構図になる。民間事業者にとっては、契約上の規定が収益の基本を形成する(契約の仕組みとしては一種のコストプラスフィー方式に類似的と考えることが適切であろう)。
② ライセンスではなく、類似的な登録制度による民間主体に対する参入規制:
ゲーミング・カジノを施行する主体が公的部門(公社)である以上、施行主体にとってのライセンスに係る制度的規定はほとんどない。一方、この公的な施行主体に対し、何らかの財、サービス提供をする主体(個人、法人)は、その業ないしは職務を実施するためには規制機関による「登録」が必要となり、その取得と保持には、一定の制度上の厳格な義務規定を設け、登録がなければ、賭博関連業務に従事することはできない。また登録の取り消し、停止などは規制機関の専権となり、機能的にはこれは「ライセンス」に近い内容になる。但し、施行を主体的に担うのは公社で、公社自体が施行者として一定の監視機能を果たしながら関連する民間主体に実質的な運営行為をゆだねるという考え方になるために、この登録の性格や規制の深さは若干異なった性格を保持すると考えるべきであろう。上記性格に伴い、制度の仕組み自体は通常の民間主体に対するライセンス付与の場合と異なり、 簡単なものになっている(実際のライセンスを得て施行を担う主体は公的主体の分身でもあり、この役割は、運営事業者を監視し、確実に税収を上げ、規律を徹底させるという、どちらかといえば、公的な立場をとるからである)。
規制機関は州政府の機関で、行政委員会となる「オンタリオ州アルコール・ゲーミング委員会」(Alcohol and Gaming Commission of Ontario) になる(委員会自体はアルコール飲料販売ライセンスやロッテリー、ゲーミング等複数の認可業務を担う州の機関である)。公社自身もこの規制機関による規制を受けると共に、公社の職員は全て雇用時点において、規制機関による身元調査・背面調査の対象になる。一方、公社と開発契約を締結する民間主体、これに対し機材等を供給する事業者、ないしは実際にゲーミング活動に従事する従業員等も全て「登録」が要求され、規制機関による身元調査や背面調査の対象になる。
一見二重の構図になり、複雑となるが、公的部門が施行により強く介入することにより、規制と監査をある程度簡素化できる側面があることをこのオンタリオ方式は示唆している(これはキャッシュ・フローの帰属が公社にある以上、売上を正確に公社が把握した時点以降では、受託民間企業やその構成員が不正行為を働く(スキミングし、売上や収益をごまかす)ことは極度に難しいという事情があるからによる)。