前述したごとく、欧州の過半の国では、賭博行為は、別途法により認められない限り違法とされるのが通例である。勿論一国の状況次第では、賭博行為は、規制の対象とはなるが、より開放的な制度の国も一部には存在する。かつまた、各国毎、賭博種ごとに、異なった法制度・規則が存在し、これらに基づき様々な賭博行為が市場にて認められ、施行されている。かかる事情により、欧州全体を同じ基準で調査した包括的な統計データは殆ど無い(バラバラなセグメント情報はあるが、計算根拠が異なったり、対象が必ずしも国毎に一致しておらず、信用できるデータ情報があまりなかったりするのが現実になる)。欧州委員会によると2011年のEU27ヶ国全体の賭博消費は849億€に達する^[1]とのことだが、明細は明らかではない。分野毎の別情報ソースでは下記がある。

　欧州賭博市場における最大のセグメントはロッテリーになり、2011 年の欧州ロッテリーの市場規模は欧州ロッテリー協会のデータによると346 億€（GGR, Gross Gambling Revenue,売上から顧客勝ち分を差し引いた額）になる^[2]。ロッテリー賭博自体は16世紀イタリアから始まり、欧州各国に広まったといわれているが、現代社会では1953年にドイツ、1976年にフランスから始まり、ほぼ全ての欧州諸国にて行われている。 ロッテリーに関しては、一部の例外を除き、殆どの国々において、国が所有し、運営する独占形態で施行がなされるか、民間主体あるいは、半公的主体、あるいは、収益を配当しない公益団体等が独占権を得て、施行しているのが実態である。一方、2004年より、9つの国の独占ロッテリー事業者が共同で賭け金プールを構成するユーロミリオン・ロトが実施されているが、インターネッをツールとして利用することにより、初めて(国境を越えた)汎欧州的な販売が成立している。

　競馬やドッグ・レース等は、競技自体は民間主体に実施させながら、賭博行為は、特定の独占権や権益を得た民間あるいは公的主体が主催するという場合が多い。これらはパリ・ミュチュエル賭博となるが、競馬のみのデータとしては2008年レベルで賭け金総額350億€とある^[3]。その他単純に物事の賭けを楽しむというベッテイングも欧州では盛んな賭博種になる。これら賭博種は、国毎、賭博種毎のバラバラな統計データはあるが、基準を同じにした正確な汎欧州の統計データはやはり存在しない。尚、英国ではブック・ショップと呼ばれるあらゆる事象を賭け事の対象にする業も盛んである。また、スポーツの結果を予想するスポーツ・ベッテイングは、サッカーを始めとして、特に欧州諸国においては人気が高い。　　

　カジノ（所謂陸上設置型カジノ）に関しては、市場は若干小さく、2011年欧州カジノ協会公表データでは、上記同じGGRベース、22ケ国で70億€の規模となる^[4]（但し、これは英国の数字を含まない）。過半の国において、当該施設の物理的な設置数、設置場所に関し規制があると共に、許諾に基づきその運営に関与する施行者に関しても、厳格な規制が存在することが通例になる。

　一方、これら伝統的な賭博種に比し、ここ数年インターネットを介在したギャンブルやベッテイングが欧州市場において急成長しており、国境を越えたこれらネット事業者の行動は、賭博市場や賭博制度そのものを変える方向に大きくドライブしているのが実態である。統計的な市場規模は公表されていないが、EU委員会データによると2011年には既に93億€に達し、2015年には130億€レベル達するといわれている。こうなると、明らかに陸上設置型カジノの収益を上回る規模でもあり、無視できない存在になってしまう。また、スポーツ・ベッテイング、特に欧州で盛んなサッカー等は、国境の枠組みを越えて、その利便性により、インターネットを介して提供されることが、基本になりつつある。インターネットを利用したスポーツ・ベッテイングは各国により、段階的に認められつつあるのが支配的な趨勢になるが、この規制や管理の在り方は、国毎に異なり、統一的な規制の考え方あるわけではない。

　この様に、賭博行為自体は、欧州社会において、確固とした産業として認知され、一定の市場を構成している。但し、その有り様は、各国毎に異なり、かつまた賭博種毎に、多様な制度的あり方が許容されており、統一的な制度的考えが欧州諸国に存在するわけではない。これは各国毎に倫理観、価値観、文化、社会的な配慮事項等が異なり、これらが制度に様々な影響を与え、多様なモデルを形成したという事情があるからでもある。この結果、如何なる賭博分野をどの程度市場開放するか、また、各賭博行為をどう規制し、かつ課税の対象とするかに関しても国毎にその状況は異なる。