英国では2005年賭博法(Gambling Act)に基づき、従来の賭博種毎に主務官庁が存在した制度を改め、国の機関(NDPB Non departmental public body)となる英国ギャンブリング委員会(Gambling Commission)が英国におけるほぼ全ての賭博行為の管理を統一的、かつ一元的に担うという極めて興味深い仕組みが構築され、実践されている。一方、国レベルで行われているロッテリーのみはこの規定の例外になり、1999年に創設された英国ロッテリー委員会(Lottery Commission)が所管していたが、2010年政府はこの二つを2012年末までに合併する方針を決定、本社は既に同じ場所に移転し、事務部門も共通化され、2013初頭より合併が実現した。この国の機関の所管省庁はスポーツ・メデイア・青年省(DCMS)となるが、世界でもユニークな統合賭博規制主体が生まれたことになる。
この委員会や関連する省庁の権限、所掌、活動概要等は下記の通りである。
(a) 英国ギャンブリング委員会:
従前存在した英国ゲーミング・ボードを代替し、2005年に創設、移行期を経て2007年から全面的に業務を開始している。所掌は(国家レベルのロッテリー、スプレッド・ベッテイング~勝ち負けという単純当否ではなく、一定範囲の上か下かを賭ける賭博の在り方~を除く)2005年賭博法の対象となる全ての賭博行為となる。その権限は、1)政府、地方政府に対する賭博政策に関するアドバイス、2)未成年その他社会的弱者の保護、3)関連する賭博運営事業者に対するライセンスないしは適格性認証の付与、3)ライセンス許諾者のあるべき行動規範の作成、4)技術標準の作成、5)運営事業者による活動の監視・管理になる。この権限を遂行するために、委員会は極めて強い罰則を課せる権限を保持すると共に、違法行為を摘発でき、逮捕特権を保持する職員を抱える(ライセンスに条件を課すこと、調査・警告、違法行為の摘発、罰金の賦課、ライセンスの停止・剥奪などを含む)。委員会は、文化省大臣により任命される10人の委員により構成され、任期は5年。独自の事務局を保持し、職員は約200名(2011年)になり、内、50名が各地に配置されている。2010~11年の年間予算は約1,330万ポンドになり、ライセンス保持者によるライセンス料や所管省からの予算配分が原資となる(但し、制度創出期にあっては、全額省からの予算配分がなされた)。尚、カジノの場合、ギャンブリング委員会のライセンスは一種の資格・適格性認証であって、これを取得した後に別途地方議会(これを認可当局、LA, Licensing Authorityという)から、施設設置ライセンス(Premises License)を取得し、初めて運営が可能になる仕組みになる。具体の施設が設置される地方議会に対し、設置を拒否できる権限を与えていることになるが、地方議会は一般的に、賭博施設の設置許可、クラブやアルコール飲料販売許可施設における電子式機械ゲームの規制と認可、家族エンターテイメント・クラブ等の設置許可権限を保持している。国(適格性認証)と地方議会(施設設置許可)の両方のライセンスを取得し、初めて運営ができる。
(b) 英国ロッテリー委員会(2012年に廃止):
1998年国家ロッテリー法に基づき創設された行政委員会となる国の組織で1999年に創設された。文化省に帰属し、大臣により任命される5名の委員で構成された。委員会は国家レベルでのロッテリーの運営事業者を選定し、当該運営事業者が許諾に際し、課された条件を遵守し、履行しているか否かを検証し、必要な場合、罰則(罰金)を課すことが主業務でもあった。尚実質的な販売やシステムの提供・運営はロッテリー委員会の民間委託運営事業者であるCamelotが担っていたが、組織としては、同委員会は2012年末に消滅し、上記ギャンブリング委員会に統合された。
(c) 財務省・金融サービス規制局:
上記の例外として、スプレッド・ベッテイングの規制・管理に関しては財務省金融サービス規制局(Financial Service Authority)が直接担っている。これは金融活動の一部と見なされたためで、2005年賭博法では規制の対象にならず、2000年「金融市場サービス法」の対象として、財務省が直接規制・管理を担うという面白い制度となっている。
上記に見られる英国における制度の特色は下記にある。
✔一部例外はあるが、過去賭博種毎に主務官庁が異なる縦割りの制度を統合化した。即ち、賭博の規制と監視を一元化し、統一した組織により、国としての統一した施策方針に基づく規制と管理がなされている。これにより、賭博行為全体に関する一貫性のある政策が取られることになった(例えば、賭博依存症対策等は全ての賭博行為に係るため、これで一貫性のある政策が貫徹することになる)。この英国の試みは、従来にはない、新しい考え方でもある。
✔賭博種毎にライセンスを付与する手法や管理・監視の要請事項は異なる。リスクを踏まえて変えているのであろう。中規模・大規模カジノは、総数が制限され、かつ地方政府が国により選定され、地域社会の合意形成を得て、かつ、国の機関より適格性の認証を取得して、初めて施設を開設できるという複雑な手順となる。カジノ以外のライセンス要件や前提は若干弱くなる。
✔また遠隔賭博として、インターネット等による賭博サービスの提供に対しても、ライセンス制度を設け、許諾することが実施されている。規制当局の管理下にサーバーを設置させ、売上を課税の対象とし、監視・管理することにより、消費者に安全なネット賭博を提供しようというもので、オープンな形でインターネット賭博のライセンス付与を実現した事例になり、英国モデルと言われている。