2011年3月時点での英国のカジノ施設は149施設、13,598人を雇用し、顧客総数は1,738万人であった一つの産業になる。もっとも英国賭博産業全体の売り上げからするとカジノ部門は全体の14%程度の規模でしかなく、その他の賭博種の方がはるかに大きい(出所:英国ギャンブリング委員会2010~2011統計資料)。英国では、従来、カジノとは全てが小規模で、かつ地理的に限定された許諾地区のみに設置できる施設でもあった。2005年の統合賭博法により、①これまでのカジノに係る広告規制の撤廃や、24時間事前顧客登録制度の廃止、②カジノに関する規制と監視制度と他の賭博関連規制・監視制度との合体化、③これに伴う新たな規制機関の創設と新たな許諾・監視体制への移行等が規定された。また、カジノの設置総数に関しては、慎重な態度を取りつつも、これを増やす基本的な方向が賭博法の中で取り決められた。如何なる施設を国内に追加的にどう設置するかは、あくまでも立法政策上の判断であったが、政治的妥協により、新たに17のカジノ施設が認められることになった。
既存の施設に加え、上記賭博法の中で、新たに設置が認められたカジノ施設は下記三種類に分類される。
① 地域カジノ(1ヶ所):スーパー・カジノと呼ばれ、米国流の大規模統合型観光施設としてのカジノ施設をいい、大きな開発投資を伴い、施設設置が地域再生をもたらすこと、様々な付帯施設を伴うことが前提となる。設置機械数等の制限は無い。
② 大規模カジノ(8ヶ所):1,200㎡以下、機械上限設置数150台のカジノ施設をいう。
③ 小規模カジノ(8ヶ所):750㎡以下、機械上限設置数80台のカジノ施設をいう。
法律は、上記枠内において、主務大臣がカジノ施設の立地および施設数を決めることができると規定している。また、設置に際し、当該施設が立地することになる地方議会(LA, Licencing Authority)から施設設置ライセンスを別途取得し、地域社会の合意形成を得ることが前提となった。これは立法政策として下記手順に基づき、地域を選定し、関連する事業者を選定する考えをとったことを意味している。
① 基本は立法政策上の判断:
どのような施設をいくつ設置するかは立法政策上の判断とし、設置規模、設置数が大きな立法政策上、政治上の判断事項となった。このために、法律の中で施設の設置数の上限が規定された。
② 地域(地方政府)の選定:
一方、どこに設置するのかという地域(地方議会)を選択する判断は、制度上は大臣の専権とした。上記①に伴い設置数が限定される以上、一定の判断基準を明確にし、施行を期待する地方政府から政策提案を募り、これを評価した上で、地域(地方議会)を選定した。この場合、立法府、行政府による干渉を避けるため、この目的のためだけの大臣の諮問機関を設置し、この中立的な諮問機関に全ての選定プロセスを委ねる手順をとった。
③ 民間事業者の選定:
地点が限定される以上、如何なる民間事業者に開発・運営行為を委ねるかは、選定された地方議会の判断に委ね、選定後、地方議会が公募により民間開発事業者を選定し、施設設置ライセンスを付与する手順をとった。選定された事業者が、土地取得、施設整備、投資・資金調達、及び運営を担うことになる。
④ 事業者適格性認証:
選定された事業者及びその構成員は別途その適格性、清廉潔癖性に関し、国の規制機関であるギャンブリング委員会にライセンスを申請し、その審査を経て、運営ライセンスを取得する必要がある。これら要件を全て具備して、初めてカジノを開設・運営できることになる。
英国政府は、上記地方政府(地域)を選定するために、大臣の諮問機関として中立的な有識者より構成される「カジノ諮問パネル」(Casino Advisory Panel)を2006年に設置し、1年という期間をかけ、施行を希望する地方政府の提案募集、評価、選定、答申を実施し、大臣判断により2007年1月、17の設置場所が決定した。設置場所の選定プロセスに政治、行政は介在せず、諮問パネルによる透明な手順に基づき、評価判断基準を明示し、提案を募り、二段階で絞りこみ、評価を行い、最終選定を図ったわけである。極めて興味深いプロセスによる地域選定となったが、その後英国議会において、この選定判断が批准されるべき所、所謂目玉でもあった地域カジノ(スーパーカジノ)の地域選定(バーミンガム市)、に関し、議会で反対が生じ、何と一部与党の造反行為により、貴族院で否決されてしまった。おりからの政権内部での首班交代もこれあり、政府方針が凍結され、英国におけるスーパー・カジノの選定は宙に浮いたままで、現在に至っている。かかる事情により、上記の17施設は2012年段階でも殆ど実現するに至っていない。透明な手順を経たにも拘らず、政治的な合意形成がうまくいかず、実現に至っていないという事例だが、政争の具になってしまったという側面が無いわけではない。但し、地域選定や、民間事業者選定の仕組みや手順は斬新、かつ極めて透明的で、かつ公平なものでもあった。