イタリア刑法第718条は一般論として賭博行為を禁止しているが、第721条に例外規定があり、国が特例として、許諾する主体・場所・賭博種に関しては、例外的に認められるとある。イタリアにおいても第二次世界大戦前、戦後を通じて、賭博行為の許諾に関しては、かなり抑制的な時期があったが、賭博行為は過去の慣行として社会に存在してきたのが現実である。かつ国民の賭博性向も他の欧州諸国と比較するとかなり高い。
規制や管理という側面から分類するとこれは二分できる。
① カジノ:
イタリアの国境に近い4ヶ所にカジノが存在する(ベニス~スロベニア国境~, サンレモ~フランス国境~, サン・バンサン~スイス国境~, カンピオーネ~アルプス国境~)。これら4つの施設は内務省が規制者として管理し、施設自体は地方政府が所有している。サンレモ、ベニスでは市政府が運営を担うが、キャンピオーネでは民間事業者に運営が委託されており、地域毎に管理事情も異なる。過去の制度や慣行に基づきその存在が求められているとはいえ、これら4施設の管理に関し一般的な規範が存在するわけではなかった。かつ過去の経緯より、この4施設以上に新たなカジノ施設を実現する議案が過去議会には提出されてはいるが、実現していない。
② その他の賭博種:
2006年時点でイタリアには上記4つのカジノの他に、32万台のスロット・マシーン、200のリンクされたビンゴ・ホール、15,000のロッテリー・ショップ、国営ロッテリー、ロト、スクラッチ・カード、競馬等の賭博種が存在した。いずれも国(公的主体)が市場を独占し、直接的に管理運営するか、民間事業者に委託する形式を取り、後者はコンセッション(Concessione)と呼称されている。2002年、この国の独占的管理権は、経済大蔵省傘下の「国家独占管理公社」(AAMS。Administrazione Autonoma di Monopoli di Stato)に委ねられ、公社が民間事業者に委託する場合は、公社が主催する入札でコンセッションを付与するという手法が取られてきた。
この様に、賭博行為は、国家管理の下に実践されてきたのがイタリアの実態でもあったが、2006年、インターネット・スポーツベッテイングに対する国内事業者による市場独占が欧州委員会により問題視されたことを契機とし、当時の財政難という事情から、イタリア政府は、従来の国家独占施策を転換し、賭博規制の自由化へと大きな政策転換をすることになる。2006年6月3日の閣議で歳入欠陥に伴う補正予算措置に関する法案(Law-Decree)が採択され、その第39条「違法ギャンブルへの対応策」により、固定オッズ方式によるネット賭博、遠隔スキル・ゲーム(インターネット・ポーカー)、競馬以外のベッテイング、ゲーミング・ショップ・キオスク販売地点17,000のライセンス入札、インターネット・ゲーミング等が新たに認められることになり、一挙に規制緩和の方向に走ることになった。この施行権限が上述の国家独占管理公社(AMMS)に付与され、2006年末に施行規則が制定された(上記法案は国会で8月4日に可決し、法律248・07号となっている)。
2006年以前は、イタリアに在住する国内事業者のみが限られた範囲でスポーツ・ベッテイング等のインターネット・賭博を提供していたにすぎなかったが、上記事情に伴い、イタリアの賭博市場は原則自由化され、根本的にその構図を変えることになった。2007年AAMSはスポーツ並びに競馬の場外馬券を店頭や、その他のアウトレットで販売するための17,000のライセンスのオークションを実施、ネットを通じたスポーツ・ベッテイングや遠隔ギャンブルもイタリア事業者外にも認められ、30社以上がライセンスを取得している。また、制度改革に伴い、既存の4カジノ施設の規制も将来的にはAAMSに委ねられることになる(制度的にAAMSを国の機関 ~Agenzia Giochi~として再構成し、賭博行為全般に係わる規制者、ライセンス付与者としての権限が付与される予定である)。インターネットによるスポーツ・ベッテイングに関しては2006年時点ではその他の欧州諸国ではまだ制限的であったが、2010年以降、様々な国で解禁されてきており、イタリアはその先鞭をつけたことになる。
賭博行為そのものは、イタリアでは大きな自由化の波の中にあるが、所謂陸上設置型のカジノに関してのみは、特例的な過去の事情により、都会ではなく、国境に近い観光地のみに、過去の個別法によりカジノが認められているという状態が厳然として存在する。歴史的には古いが、数は限定され、規模も小さい。この意味では、カジノに関する限り、全く前近代的な域を出ていないのだが、それ以外のあらゆる賭博種は、かなり盛んで対象的な構図となっている。地理的に限定される物理的なカジノよりも、全く類似的な遊興がネットで提供できる以上、国民の人気はそちらの方にいっていることが現実である。