現代欧州社会の特徴は、EUの拡大化と共に、旧東欧諸国のEUへの統合化と一体化にあるといっても過言ではない。欧州自体は、EUとECFAに分かれるが、賭博に関する制度的考え方や規制の在り方は極めて類似的なスタンスが取られている。その意味では、欧州全体で制度的には類似的な規範的概念が存在しつつも、各国が独自の制度を設けているというのが実態に近い。注目すべきは、EUの拡大と周辺諸国のEUへの統合である。これに伴い、従来必ずしも整合性のなかった旧東欧諸国において、新たに賭博許諾が一つの施策として注目を浴び、様々な新しい国々において、制度を再構築したり、新たな許諾賭博を認めたりする趨勢が顕著になりつつある。
これには、下記の共通的な特色がある。
① 新たな観光資源としての着目:
緊張から協調、市場の隔離から市場の拡大へと、旧東欧諸国の関心は移りつつあり、あまり財政負担を伴わない産業施策として、観光振興施策が注目を浴びている。欧州域内全体の顧客を観光客として取り組むことを意図する観光客誘致競争が起こりつつあり、来訪観光客誘致、税収増を実現する一つの手法としてエンターテイメント・カジノやカジノを含む複合的観光施設の実現が注目を浴びつつある。
② 効果的な外貨獲得、税収増、雇用増手段:
投資を奨励し、外資に許諾を与えることで、施設を整備し、これに観光客を誘致することにより、支出を促し、外貨獲得、産業振興を図り、結果として税収増、雇用増を図る考えになる。旧東欧諸国ではこの考えが強い。
③ 市場の均一化と拡大化、競争の激化:
市場自体が段階的に均一化し、類似的な制度が各国で整備されつつある。全てではないが、英語のサイトを設けて、情報発信したり、西欧の規制機関との連携・協力を保持したりして、制度や規制の体制を整えつつある国も多くなりつつある。一方、異なった地域間における顧客争奪競争は存在し、観光客誘致もかなりの競争に直面していることは間違いない。
かかる施策を積極的に取った国は、旧バルト諸国(クロアチア、エストニア、リトアニア)と共に、ブルガリア、ハンガリー、ラトビア、スロベニア等になる。これら以外にも、チェコスロバキア、ポーランド、セルビア等にもカジノ施設が存在し、来訪観光客と共に、一部の国では自国民に対する遊興の手段となっている国も存在する。内、スロベニア等は明確に、イタリア国境近くに設置される滞在型リゾートを志向しており、明らかに隣国イタリアからの観光客誘致を対象とするビジネス・モデルを狙っている。滞在型リゾートとしてのカジノはイタリアには概念としては存在せず、潜在的に顧客を惹きつけることができるからである。
一方、
① これらの国々の多くは、大蔵省による管理や、大蔵省を主体とした複数省庁による共通管理、あるいは、これら省庁の傘下に、一定の独立的な権限を付与された行政委員会を設置し、これが規則制定と運営監視を担うという国が多い。
② 制度や規制は一応整備されてはいるが、まず制度を整備し、外資を誘致して、施設整備や枠組みを構築することに主眼が置かれ、公正さや公平さ、あるいは不正や悪の排除という観点からの効果的な規制や制度となっているかに関しては、検証できるデータや資料はあまりにも少ないのが現実である(英語の開示データやウエッブが限定されること、法律や制度、統計の不備等により、実態に関する情報開示が限られることより、はたして公正なシステムや制度と言えるのかに関しては懸念なしとしない)。
③ あるべき規制の実務的な考えは上記に拘わらず、欧州全体としてみる場合、一定の考え方に収斂しつつある様子が伺える。一方、これら新たに創出された市場においては、税収増や観光客増のプラスの側面には政策的配慮があるが、賭博がもたらす社会的危害や、地域社会との共生等という側面には、まだ、政策的配慮は少ないといえる。
④ 把握できるこれら諸国の2011年における市場規模は下記になる(出所:欧州カジノ協会、European Casino Association)。
✔ スロベニア:9施設、年粗収益1億7100万€
✔ チェコ:200施設(スロット・パーラーを含む)、年粗収益1億5800万€
✔ ルーマニア:11施設、年粗収益7900万€
✔ ポーランド:33施設、年粗収益6700万€
✔ エストニア:59施設(スロット・パーラーを含む)、年粗収益4800万€
✔ リトアニア:14施設、年粗収益2500万€
✔ ハンガリー:3施設、年粗収益2200万€
✔ セルビア:1施設、年粗収益900万€