カンウオンランドを巡る様々な課題(歴代幹部の汚職スキャンダル、施設周辺に乱立した質屋や施設周辺における風紀の乱れ、加熱する賭博ブームと賭博依存症患者の増大)等を指摘し、韓国人も入れる韓国のカジノ・モデルは失敗と主張する意見がある。現実の表象のみを観察し、コメントすれば確かにかかる考え方もありえようが、これのみで韓国制度の是非を論じるのもあまりにも表層的過ぎる。制度と現実がどう生まれ、発展していったのかを検証することなしに現代韓国のカジノ施設の在り方を論じることは適切ではない。
韓国のカジノは1967年当初は専ら駐韓米国軍人の為の遊興施設として生まれたもので、制度としては、必ずしも精緻な考え方を前提としたわけではない。主要顧客が外国人、外貨獲得がその本来の目的である場合、制度そのものは確実に甘くなる。最も当初の韓国カジノはこの前提で韓国人もが参加できる施設であったのだが、韓国内の犯罪組織や日本のやくざが関与し始めたことで、韓国人の入場は禁止され、外国人専用の施設となり、制度や規制の本質はこの時点で発展が止まってしまった。その後の1999年以降の制度改正も、規制の精緻化には至っていない。外国人専用カジノである以上、その必要性もなかったのであろう。この結果、制度としては単純な認可事業として構成され、運営上の問題がある場合には公安当局による裁量による強権が発動できる仕組みでしかなかった。規模が小さく、対象が外国人のみである場合、かかる制度でも十分機能したといえる。このために、カジノに関する固有の規制機関という概念は韓国では想定されず、当初は公安当局がこれを担い、その後文化観光部(現在の文化体育観光部)に所管が移され、単純認可事業として構成されているにすぎない。尚2006年に社交産業統合監督委員会が設立されたが、これは個別の制度に係る規制機関というよりも賭博業全体の過剰な射幸心を抑制したり、賭博依存症への政策対応を検討したりする為の機関であり、個別規制機関は韓国の場合には存在しないと判断すべきであろう。
一方、韓国人も入れる唯一のカジノであるカンウオンランドは、廃坑地域再生という社会的問題の解決のために導入された施設でもあり、旧観光振興法の一部条項を変えることにより、韓国人の入場が可能になる施設を設けたものである。韓国人が入場すること、ここから生じる様々な社会的課題を検証し、その制度的な手当もすることなしに、既存の制度にあった韓国人入場禁止措置を外すことで対処した。即ち詳細な制度的措置を考慮せずに、カジノを実現したというのが現実で、まずカジノありきの施設でしかなかった。事業主体も実質的には官民JVで公的な性格の強い主体として構成され、公安当局が裁量性のある権限を保持し、問題あれば介入するという仕組みになる。カジノ設置の結果として、収益が基金経由地元に還元する仕組みが作られ、これに伴い関連する道や市町村等の自治体はインフラ整備や様々な税収上の恩典を得ることになった。地域振興や地域再生には大きなメリットがあり、この意味では政策的に成功したと判断すべきだが、同時に、これのみで廃坑地域であったことから生じた様々な社会問題の全てを解決できえたわけではない。かつまた、制度も規制もない状態で、自然発生的にカジノ施設の周辺に無数の質屋ができてしまったり、金銭消費を煽ったりする仕組みが外部に寄生してしまったことも事実となる。また、韓国人の間で賭博依存症となる患者が増え、様々な社会的問題を生じてしまったことも現実となる模様だ。このために、地域住民による施設へのアクセスを限定してみたり、カジノ施設内にカウンセリング対応施設等を設けたりしてはいるが、アドホークな対応でしかないといえる。
韓国のカジノは、緻密な制度設計や対応のもとで実現したものではなく、まずカジノありき、施設ありきでその後生じてくる問題に対処療法的に対応していったというのが現実なのであろう。経済的には大きな成功を納めたといえるが、他方では、様々な社会的問題やガバナンスの課題を抱えたまま走っていることになる。韓国カジノは下記課題を抱えているといえる。
① 基本的には主務省庁による認可事業として制度が構築されている。行政の裁量権が強く、民に委ねる場合の規範の構成や、参入要件、監査監督等は、具体の案件が1件のみ、公的主導で実現したということもあり、詳細な規則や規範を構築した上で、施行の体制が図られたわけではない。この結果、どうしても施行自体のガバナンスが弱くなっている(監視監督が甘くなり、問題が生じないように防止する枠組みは脆弱といえる。これが将来リスク要因となる可能性は高い)。
② まずカジノありき、制度は後付けという制度の場合には、問題が生じてからの対処療法しかできない。地域社会や社会的問題に対する対応は当初は無視され、問題が生じてきてから、様々な対応策がバラバラに実施されてきたという感がないわけでもない。社会政策的な対応も後付けでしかすぎず、かつバランスのとれたものにはなっていない(単純な射幸心抑制規制ではなく、健全性、安全性を担保し、エンターテイメント施設としての良い所を育成しながら、規制するところは規制するという、バランスのとれた多面的なアプローチが本来必要である)。
③ 外国人専用カジノで留まる場合には、現状の体制でも問題ないが、この基準と同じ考えで、内国人も参加できるカジノに適用するにはどうしても無理がある。もし、今後、内国人も入れるカジノ施設を複数考慮し、実現する場合には、制度の在り方そのものを再考する必要があろう。