シンガポールにおける二つの統合リゾート施設は、2010年よりオープンになっているが、急成長を遂げ、なんと運開後2年もたっていない2011年の時点で、米国ラスベガス市ストリップ地区にある全39のカジノ・ホテル施設を上回る粗収益を達成する規模にまで成長してしまった。わずか二施設で、世界でもっとも利益幅が高いエンターテイメント・カジノ施設を構築することに成功したことになる。かつこれら二つの施設が直接的、間接的にシンガポールの観光客の増大、観光収入の増大に貢献したことは疑いない。勿論この二つのIR施設のみが全ての成長の要因ということはありえないが、シンガポール政府はこれらIR施設が顕著な役割を果たしたという事実を認めている。あきらかにこの二つの施設が開業した2010年以降、あらゆる観光関連指標は持続的成長のパターンに入りつつある。
この二つのIRの顧客層は、約7割はシンガポール人の一般顧客となり、約3割が外国人来訪客となる模様である。この意味では顧客総数としては内国人が圧倒的に多い。一方これら顧客の内、VIP顧客(高額賭け金顧客)は外国人(華僑)が殆どとなる模様である。その過半が東南アジアに偏在する華僑、中国・台湾・香港からの顧客等中国系顧客である。一方、これら顧客の全体の粗収益に対する貢献度は、顧客数とは全く逆になり、7割がVIP顧客関連収益になり、一般顧客が3割となる。VIP顧客層が収益に貢献するレベルは極めて高いことを意味し、全体収益のレベルを押し上げているのが限られたVIP顧客層であることがわかる。それだけ優良な顧客をアジア全域から集客することに成功したということでもあろう。尚、カジノに付随するホテルや飲食、エンターテイメント等その他のアメニテイー施設やサービス提供事業も着実に収益を上げてはいるが、ゲーミング関連粗収益とその成長率があまりにも高いため、年レベルでの収益比率でみると、ゲーミング粗収益が約7割、他の活動による収益が3割という収益構図となっている。但し、ゲーミングと非ゲーミングの異なる二つの分野がお互いに影響し、消費や収益を増やすというシナジー効果は十分発揮できている模様である。
シンガポールはマカオと異なり、税率が相対的に低く、運営事業者にとっての取り分が多くなるため、これを原資として、対VIP顧客サービスやキャッシュ・バック等をより顧客にとって魅力あるものとするマーケッテイング戦略を取ることにより、質の良い顧客を集客できたという側面はある。尚、ジャンケットは制度・規則としては設けられた(制度的にはジャンケットという言葉を用いるが、同国では通称、国際マーケッテイング・エージェント、International Market Agent, IMAという呼称が用いられている)、シンガポール政府はその認可と実践にはきわめて慎重であり、2012年3月にゲンテイング社関連の二社に初めてライセンスを付与したにすぎない。この結果、マカオとは異なる手法・アプローチでVIP集客とマーケッテイングに対応しているという側面もある。
このシンガポールにおけるIR(統合型リゾート)の成功は、世界各地にも様々な影響を与え、類似的なIR構想が世界のあちこちでドミノ現象のように実現する兆候が出始めている。では、何がシンガポールの成功をもたらしたのであろうか。
① 市場実態に配慮した集客戦略:
近隣諸国に同種施設が無い状況をうまくつかみ、東南アジア華僑富裕層をCaptiveな顧客として集客することに成功したことが大きな成功をもたらした一因でもあろう。アジアは世界における経済成長の核でもあり、市場全体に圧倒的なエンターテイメント・カジノに対する需要が存在する。一方供給が十分ではないという状況をタイミングよく掴むことができたということでもあろう。
② 統合型リゾート(IR)、従来には無かった新しいコンセプトの集客施設:
ビジネス客、コンベンション客、ファミリー客をも取り込む魅力ある統合型リゾート(IR)という概念と施設が大きな集客力を発揮できたこと、また効果的な集客自体が消費を高め、相乗効果をもたらしたことが、高い事業性をもたらしたといえる。
③ 利便性やアクセスを極限までに向上させた新たな都市型リゾート:
飛行場の利便性の向上、飛行場からのアクセス、中心市街地との鉄道リンケージやアクセス、周辺区域の観光資源化、様々なアトラクションやショー等多種多様な都市空間のアメニテイ―の提供等、従来には存在しないエンターテイメントモデルを東南アジアで初めて提供できたことが、アジア全域から顧客を集客することに貢献している。
④ 都市再開発や観光振興施策の中での地域開発との相乗効果の発揮:
国を挙げての観光振興施策の中でうまく統合型リゾートの考えが他の様々な観光振興施策とフィットし、相乗効果をもたらしている。
こと等があげられる。