2010年以降、台湾政府は新たなゲーミング・カジノの制度を構築する為、組織的な対応を平行的に実施した。その一つは、地域を選定するためにオフショア群島地方政府自身が地域社会の合意形成をする試み(住民投票)となるが、政府レベルでは、主務官庁となる行政院・交通部(MOTC Ministry of Transportation and Communications)により、カジノに係る法制度構築の試みが着々と進行した。基本的な考えとしては、地域を指定する仕組みは地方政府と需民の意思次第となり、これとは別に、如何なるリゾート施設とし、如何なる民間事業者選定するのかという手順と、如何にカジノに係るライセンスを与えこれを管理するかという手順とは別になることが台湾の制度的仕組みになる。
行政院・交通部が取った制度構築の実践は下記になる。
① 2010年1月、交通部はオフショア群島に統合型リゾートを実現するための包括的な検討と法案の素案策定業務を外部専門家に委ねることを目的として、内外の法律事務所・ゲーミング法専門家を対象として公募、9グループが応札し、同年5月に台湾法律事務所大手であるLin & Partnersが受注した。台湾には類例の無い制度になることより、海外の法制度や実例を参照にしつつ、台湾であるべき規範につき素案を作成する業務を民間専門家に委ねるという面白い手法が採用された。
② 同年に交通部・観光局(MOTC Tourism Bureau)は、統合型リゾート(IR)に関する概念形成、ガイドライン策定(IRとは何か、如何なる要件規定をするか)に関しての公募を行い、これはコンサルタント会社であるOcean Tech Groupが受注した。これはIRに関する一定の規範を設け、要件規定を明らかにすることにより事業者選定の枠組みを制度的に固めるというアプローチになる。これに関しても素案作成は民間に委ねられた。
③ 2010~2012年にかけ、交通部は上記アドバイザー・コンサルタントと連動し、産業界、関連するステークホルダーからの情報インプットを得ると共に、様々な関係者との対話を実践した。2012年4月にはLin & Partnersは制度の骨格となる台湾ゲーミング法(Taiwan Gaming Act)の素案を公表。台湾本土、離島等でセミナーを実施し、ここでも民間のインプットを得て、法案骨格の検討を続け、複数の素案を公表している。透明な手順を取ったのは、潜在的民間事業者のインタレストを募るという意図もあった模様である。
④ 上記Ocean Tech Groupは2012年春に最終IR報告書を交通部・観光局に提出、Lin & Partnersも2012年10月にゲーミング法案を交通部に提出している。行政院交通部は、法案検討委員会を組成し、その後政府内部で関連省庁を交え、制度の最終案策定のための議論が開始され、2013年1月末に法案が確定し、交通部より行政院に提示されている。この結果、行政院は2013年6月までに法案を立法院に上程し、可決させる方針を公表した。
⑤ 結果的に規制機関を創出する法律(案)とカジノに関する運営規則等に関する法律(案)の二つの法案が行政院より立法院に上程され、審議中でもあり、時間の問題で成立することが確定した。
上記のごとく、台湾では、制度の骨格となる考え方の形成に外部法律事務所やコンサルタントを起用し、台湾の事情を考慮しつつ、国際的な標準となる考え方にも準拠した基本的な考えをまず民間専門家に起案させ、政府としてその実効性を検証しながら、内容を固めていくという手法をとった。公開された法案では、一部細目等に関してはふれられておらず、枠のみとなるが、全文136条から構成されるかなりしっかりとした内容となっている(最終確定法案の英訳はまだ公開されていないが、時間の問題で公表されるはずである)。