商業的にインターネットが一般化したのは1990年代初期から中葉になる。この仕組みを賭博にも応用しようとする動きは、早くもこの頃から起こっている。この先駆けとなった事象は1994年から1995年にかけてのMicro Gaming社による賭博ソフトウエアの開発でもあり、かつ1995年のCrypto Logic社による暗号化された通信プロトコールの開発でもあった。後者により初めてオンラインによる金銭を賭するサービスの提供とこれに伴う金銭決済取引が可能になったという事情がある。これらの帰結として、既に1995年には実際の金銭を賭けないゲームとしての賭博ソフトウエアがネット上に登場した。一方この頃欧州においても既にロッテリー・チケットの販売にインターネットを利用し始めており、これらがオンライン賭博の始まりであるといわれている。
かかる先駆的試みを経て、1996年には、アンテイグアに本拠を置くInter Casino社がオンラインでカジノ賭博を提供し始めたのが、今日でいう本格的なインターネット・カジノになる。その後、中南米のカリブ海諸国がかかるインターネット賭博事業に着目し、事業者を認可するためのライセンス制度を設けたり、これら事業をホストしたりする事例が増えてきた(これらカリブ海を根拠地とした事業者の主たる顧客層は米国になる。米国ではネット賭博は法的にグレーであった為、インターネット事業者は、米国からサービスを提供するわけにはいかず、米国に近いカリブ海の小国が、低課税、低費用、簡素な規制を武器に、競って、これら事業者の誘致に動いたため、これら地域を本拠地とした)。また、先進諸国においても、同じタイミングで類似的な動きがでてくる。1996年には英国で、Eurobet社がオンライン・スポーツ・ベッテイングを提供し始め、同年豪州のCentrebet社がやはりオンラインのスポーツ・ベッテイングを始めている。フィンランドも1996年に国営ロッテリー公社にオンライン・ロッテリーのライセンスを付与している。1997年には米国アイダホ州の原住民部族であるコードアレーン族がオンラインのロッテリーを始め、1998年にはジブラルタル、1999年にはカナダの原住民部族であるカナワケ族もオンライン賭博の制度を構築し、事業者を誘致し、オンライン賭博を提供する仕組みを構築するに至った。
1996年頃には世界でわずか15業者程度しかなかったのだが、1997年には200のサイトがインターネット上で運営されるようになり、1999年には650サイト、2002年には1,800サイト、2008年には確認されただけでも2,000のサイトが存在し、520以上の企業がこれらを提供し、以後その数は増え続けている。但し、サイト数だけで市場の大きさを判断するわけにいかないのは、一つの事業者が複数サイトを運営しているケースも多く、総サイト数となると倍々で増えるという事情があるからである。これらオンラインのサイトは約85の国から世界に向けて発信されている。取引量が多い国としては、ジブラルタル、カナダのカナワケ族、マルタ、英国、アルダーニー(英領チャネル群島)、アンテイグア・バルブーダ、オランダ領アンテイ―ユ等になるが、数字は常に変化しており、アップデートされた信頼おけるデータはあまり存在しない。制度の環境次第で、企業は国境を単純に超え、ライセンス取得国を変えて移籍してしまう傾向があるため、正確な統計データは捕捉できないのが現実である。
尚、過半の事業者が中小、ベンチャー的な新規企業となるのは、既存の陸上設置型のカジノ運営事業者は様々な制度により拘束を受けており、制度的にはグレーな領域となるインターネット・カジノには積極的に足を踏み入れなかったという経緯があったからである。一方欧州では英国のようにスポーツ・ブッキングやブック・メーキングを担ってきた主要事業者は、全てネット事業を立ち上げ、オンラインによるサービスを提供し始めた(1996年Eurobet社, 1998年にはWilliam Hill社, 2000年にはLadbrokes社)。これら企業は、巨大な事業体として成長し、いずれもロンドン株式市場で上場するに至っている。豪州でも90年代後半には同様に一部事業者がインターネットによるサービスを提供し始めた。かかるネット化の動きは、ロッテリー並びに、スポーツ・競技のブッキングから段階的に広まってきたといえる(香港ジョッキー・クラブやカナダのアトランチック・ブリテイッシュ.コロンビア・ロッテリー会社等もこの部類に入る)。その後、ネットは1998年にビンゴ、ポーカー・ルームにまで広まってきており、この中の最大の成長株はインターネット・ポーカーとなり、現在に至るまで世界中でファンを増やしている。
この様に
① ネット賭博は90年代中葉以降より本格化し、当初はスポーツ・ブッキング、ロッテリーから始まり、その後カジノや様々な賭博種を例外なく、含むに至っており、世界規模で市場は毎年二桁ずつ急速に拡大している。
② 世界全体を一つの市場として対応し、多言語で、24時間操業となるため、効率がよく、確実に市場規模を拡大している。制度的には認める国と認めない国に分かれ、規制のレベルは千差万別であり、グレーな領域が多いのが現実である。
③ 但し、現実にはネット賭博市場は巨大な市場へと成長しつつあり、無視できない存在になりつつある。これに伴いネット賭博市場は、確実に伝統的な賭博市場や陸上設置型カジノの一部顧客を奪うという事象も起こりつつある。