インターネット賭博の概念は、賭博の世界に全く新しい考えをもたらすことになった。賭博行為とは本来人間対人間の営みでもあり、物理的な施設があり、この中で胴元と顧客が対峙するという仕組みが伝統的な概念でもあり、これが制度の根幹の考え方でもあったからである。一方、通信技術やインターネットの飛躍的発展は、サイバー世界で賭博行為を提供するという業と事業者を生み出した。アクセスの用意なネットレベルでの賭博は、一般庶民の中で飛躍的な人気をもたらし、同時に従来の発想では想定できえなかった制度的混乱を生じさせることになった。これはリスクの在り方の根本が、伝統的なゲーミング賭博や賭博の形態とは大きく異なるという事情があるからである。この結果、従来の制度や規制の考え方では、明確に対応できない側面もあることが明らかになっている。
インターネットを通じた賭博行為には下記リスクがあると判断されている。このリスクをコントロールできるとみるか、できないとみるかで、インターネット賭博の賛否が分かれることになる。
① 不正、いかさまが介在しうるリスク(情報の非対称性から生じるモラル・ハザード):
インターネットは陸上設置型カジノや伝統的な賭博と比較すると、利便性やアクセス性は遥かに高い。但し、顧客にとり、限りなく賭博を提供する胴元の実態を知ることは難しい。かかる事情により、提供されているゲームが本当に公正な内容なのか否か、不正やいかさまが本当に存在しないかを顧客自身の能力で確認することは不可能に近い。また資金を預託し、実際に大勝したとしても、果たして本当に支払ってくれるのか否かというリスクも存在する。胴元の負けが巨額になったとすれば、顧客の支払いを無視し、当該サイトをクローズして、全く新たなサイトを安価な費用で立ち上げることはいとも簡単にできる。この様に、何らかの規制がなされない限り、胴元のモラルハザード・リスクは存在し、限りなく顧客が損失を被るリスクが高まってしまうことがネット賭博の大きなリスクになる。顧客の権利を守ることのできる明確な仕組みは、これを意識的に作らなければ存在せず、顧客の立場は、陸上設置型カジノと比較すると格段と弱くなってしまう。
② 組織暴力等の犯罪組織が不正な利益を取得する手法として用いるリスク:
ネット賭博のサイトを海外で立ち上げ、ここから世界を相手にサイバー世界でネット賭博を提供することは、さほど手間と費用がかかるものではない。かつ顧客には解らない形で、胴元の名を秘匿しながら、サービスを提供できる。国によっても事情は異なるが、軽課税国で、割と簡易な審査でライセンスを取得し、かかる国のサーバーから複数言語により、世界にサービスを提供することはいとも簡単にできる。これを犯罪組織が活用し、犯罪行為やテロの資金源としたり、組織拡大の一つのツールとして用いたりしたならば、大きな社会的リスクになる。また、ことが海外である場合には、これを摘発し、犯罪行為を立証することも単純ではなくなる。
③ 本来取得すべき税収が遺漏するリスク:
賭博行為を認める一つの大きな政策的理由は、施行に伴う売り上げや収益に賦課される税の確保であり、公的部門にとっての財政的メリットになる。一方サイバー世界で一国の国民が、他国の事業者が運営するインターネット賭博サイトで金銭を賭け、支出をした場合、ネット事業者が存在する国で安価な税が支払われるだけになる。これでは課税の対象にできず、一国にとり、事業者にも支出をする国民にも課税できず、本来自国に入るべき税収が遺漏するという結果をもたらすことになる。一方、ネット賭博で大儲けした顧客は、税務申告をしたがらない。また、税務当局もオンラインで遊ぶ顧客を正確にトレースできる能力は無いのが実態でもあろう。
④ 未成年者によるアクセスや、不適格者によるアクセスを管理し、規制できにくくなるリスク:
インターネットは相手の顔を見て提供されているわけではないために、顧客が未成年か否かを確認できる手法は極めて限定されてしまう。アクセスや利便性の良さは、未成年者や法律上の欠格者による賭博行為を安易に認めてしまうリスクを高めるということになる。顧客が未成年か否かは、事業者が厳格にチェックすべきであろうが、規制が緩い国では何もチェックしていないという事象も生じている。
⑤ 賭博依存症患者が増大するリスク:
インターネットによる賭博行為の賭け金は現金ではなく、クレジット・カード決済が基本となるために、どのくらい消費したのかが理解できなくなるとともに、賭博にはまってしまうリスクがより高まる可能性が高いといわれている。賭博へのアクセスや支出へのアクセス、利便性が高まることは、支出を増やすという結果をもたらすことに繋がりやすいことになる。
この様に、個人性、固有性、無差別性というインターネットの特質は、賭博行為を極めて個人の営む個人的な事象としつつある。これに伴い、従来には存在しなかったリスクが顕在化しつつあるのが現代社会になる。もっとも技術の発展は、従来ありえなかった管理手法をも生み出しつつあり、一見管理不能であった分野が管理可能になりつつあるという状況も生まれている。