現実の社会では、個人による財やサービスの購入に対する支払いは、現金・小切手やクレジット・カードになる。通常のカジノでは、現金等はチップに交換され、チップが賭け事の手段となる。オンライン賭博の場合には、基本となる決済手段は、クレジット・カード決済により、償還可能なそのサイトのみで流通する電子チップを(バーチャルに)購入することが前提になる。場合によっては銀行による送金という行為もあるが、殆ど使われないのは手続の煩雑さによる。一方、現代社会の複雑さは、クレジット・カードのみが唯一の決済手法ではなくなってきたことにある。例えばデビット・カードは銀行口座と直結し、口座から直接支出額が差し引かれる仕組みになる(クレジット・カードもデビット・カードも大手カード会社が発行する場合もあれば、プライベート・ラベルと呼称する、カード会社と提携したその他のサービス会社が発行する場合もある)。Eキャッシュ、デジタル・キャッシュあるいは電子財布(E-ウオレット)、スマート・カード等、いずれもサイバー世界において、一定のクレジット・デビット機能を保持し、ここから資金の支払いや入金ができる仕組みも利用されるようになってきた。これら決済の仕組みはE取引やネット・ショッピングに用いることのできる効果的なツールでもあり、その安全性、確実性、情報のセキュリテイーは技術的に担保されつつあるが、インターネット賭博にもかかる電子的決済手段が用いられつつある。この様に様々な決済手法や決済の多様化が存在することが、事態を更に複雑化させている。
様々な決済手段や決済手法を利用することができることは、一般消費者や顧客にとっては確実に利便性が向上するが、他方では必ずしも完璧には解決できない様々なリスクが生まれることになる。例えば下記の如きリスクがある。
① 顧客にとっての公正さと安全性の担保:
ネット事業者に対する顧客に対する勝ち分の支払いはサイトにおける顧客の勘定にクレジットされ、顧客の要請に応じ、クレジット・カードや電子財布等に対し、クレッジットが為されるという仕組みになる(クレッジット・カードの入金確認には時間がかかる。一方電子財布等の場合には時間は短縮できる)。但し、この支払いが確実になされるか否かに関しては、何らかの保証があるわけではない。例えばインターネット・カジノ事業者が倒産したり、巨額の負けの支払いを避ける為にサイトを勝手に閉鎖し、別の名前でサイトを立ち上げたりすることは不可能ではない。顧客が何らかの損害を被った場合、インターネット・カジノ事業者を特定し、勝ち金を取り立てるためには、技術上・法律上の障害が存在する。陸上カジノの場合には、消費者を保護する制度的仕組みがあるが、ネット賭博の場合には同じ考えを適用することはできない。国際的な電子商取引で、消費者を保護できる完璧なシステムや制度は未だ存在しない。しっかりとした規制が無いとすれば、この事実を悪用する主体が現れるリスクは高いと言わざるを得ない。
② クレジット・カードの安全性に関する懸念:
個人のクレッジット・カード決済情報を開示することになるため、この情報が不正に他の用途に使われないか否か、適切な暗号化がなされ、きちんと保護されているか否かに関する明確な説明はなされないことが多い。信頼おける第三者が公正さと適格性を認証しない限り、限りなく個人情報が遺漏してしまうリスクが高まることになる。また例えクレッジット・カード情報を盗まれたとしても、相手がどこにいるかわからず、犯罪行為を特定できないことが過半となる。ゲームを提供する主体が如何なる主体なのか、信用できる主体なのかを予め情報として、正確に把握できずにゲームに参加することが大きなリスクになるわけである。
③ 外貨取引・課税状況に関する不案内:
取引通貨単位が何になるかにも拠るが、例えば㌦通貨による取引をし、決済通貨が㌦で、支払いは自国の通貨、自国のクレジットないしは銀行勘定となる場合、当然為替取引費用が生じることになる。顧客は、為替交換に伴う費用を開示されず、顧客が一方的に不利となる為替レートを、後刻適用されてしまうリスクがある。一方、この支払い部分が、所得課税の対象となるのか、如何なる課税処理になるかも、国によっては、不案内であることが多い。
決済手段に関するリスクは、サイバー世界自体の技術的問題が引き起こす側面と、ネット賭博事業者自体の清廉潔癖性や公平性が必ずしも立証できていないという側面との二つの課題に分かれる。技術的な課題は電子商取引全般の課題でもあり、時間の問題で解決可能となることも現実であろう。一方、ネット事業者の公正さの課題は、認証を与える国がシステムや当事者を厳格かつ緻密に規制の対象におき、適切な検証やチェックが為されているか否かにもよる。後者が不明確な状況や規制の甘い国である場合、利用者にとってのリスクは極めて大きくなる。