前述のごとく、欧州諸国では、統一的な賭博規制はなく、インターネット賭博に関しても、個別の国ごとに禁止、許諾あるいは規制の在り方は異なる。陸上設置型カジノや、パリ・ミュチュエル賭博では各国ごとに制度や仕組みは異なるが、インターネット賭博に関しては、全てではないが、一部の賭博種(スポーツ・ブッキングやインターネット・ポーカー)に関する限り、一定の規制とライセンス制度の下でこれを認める考え方が欧州諸国では浸透しつつある。必ずしも統一的な動きではないが、類似的な制度が国毎に設けられ、競争環境を保持しながら、インターネット賭博市場を一部開放しようとする動きである。
これら欧州各国の規制の特色は、インターネットによる賭博提供の特性に着目して、規制の考えを発展させたことにあり、現代社会において最も先進的な規制の在り方になる。これは下記要素等から構成される。
① サーバー、ソフトウエア等の認証取得義務:
ゲームの提供は、当該国の国内に設置されたサーバーから、特定のプログラムにより発出することになるため、サーバーやプログラムの全て(ハードとソフト、これらを構成する全てのプラットフォーム)をゲーム種毎に規制機関による認可・認証の対象とする。これにより、ゲームの公正さ、公平さを検証し、かつその適格性を担保できる。改ざんは罰則の対象、変更は全て認可の対象とし、定期・不定期の監査や検査を実施する。また、意図的に確率値や期待値を変更することはできない仕組みを前提とする。
② ゲームの結果及び関連決済取引の記録保持と記録保管義務:
一方、ネット取引の特徴は、単純に、公正なゲームを提供するだけではなく、顧客情報と顧客に係わる取引および決済情報が、個人勘定別に電子的に記録できるという点にある。顧客と胴元との全ての賭けごとの記録・結果、及びこれに伴う決済関係の記録は、デジタル記録として電子的に保管することができる。伝統的な人間が介在するテーブル・ゲームでは、取引記録は間接的なビデオ監視以外無い。一方、インターネットでは、個別取引の詳細を決済と共に電子的に記録できることになり、おかしな取引や不正やいかさまを後刻完璧にチェックすることができる。また、顧客情報や決済情報の記録も陸上設置型カジノでは完璧に捕捉できないのだが、インターネット・カジノでは逆に完璧な情報記録が残ることになる。
③ 取引の完璧なトレーサビリテイーの確保:
上記の様に、ゲームの勝ち負けの結果、個別顧客との勘定、個別取引とその決済情報などのデジタル記録が保持できる場合、過去に遡り、賭博行為の経緯をトレースし、チェックすることが可能になる。ネット取引とは、顧客レベルでは、情報の非対称性が高いが、これを提供する事業者のサーバーやソフト・プログラムに着目した場合、全ての電子情報と記録が集中するため、逆に管理しやすいという側面もある。また後刻かかるデータを監査することにより、マネー・ロンダリング等の不法行為の摘発につなげることができるという効果もある。
④ 規制当局によるオンライン監視・管理:
所謂陸上設置型カジノにおける伝統的な規制当局の考えとは、事前、事後のチェックや定期的な監視や検査等により公平性や、公正さを担保するというものでもあった。一方、ICT技術の発展は、規制当局と事業者が設置するサーバーをオンラインでリンクさせ、規制当局がリアル・タイムで、ゲーム提供と決済に関する全ての必要な情報を共有し、監視することを可能としている(例えばイタリアでは規制当局の中央システムが全てのライセンス事業者をオンラインでリンクし、リアル・タイムでこれらを監視する。勿論監視といっても監視プログラムを用いて一部自動的な監視を実施するわけで、通常とは異なる取引や以上な行動に注目し、監視する)。これはリアル・タイムで、規制機関が事業者売上げを正確に捕捉できることになり、リアル・タイムでの課税行為も可能になる(課税対象額と税金を正確に捕捉し、後刻課税通知が届けられ、納税ということになる)。
上記は、サイバー市場全体を規制し、管理するという考え方ではなく、サイバー世界の中に安全かつ安心となる領域(サイバー空間)を一国内に設定し、この中で一定の規制のもとにインターネット賭博を認めるという考えに近い。これを個別事業者のサーバー単位ごとに実現するわけである。この結果、ゲームを提供する事業者の清廉潔癖性を担保できれば、安全かつ安心なネットによるゲーム提供は可能になる。サイバー世界では、サイバー世界での最先端の手法を用い、ゲームを提供するサーバーをリアル・タイム、オンラインで監視することにより、事業者を規制し、かつ効果的な監視を実施することができる。規制者がICTにより情報武装し、オンラインで事業者とリンクすることにより、これができることになる。これにより、規制者側にもICTに関する技術知識や管理手法が必要になってきている。