有害サイトへのアクセスを遮断するだけならば、例えば、個別のコンピューターからインターネットにアクセスする利用者に着目して、①フィルターリング・ソフトを利用する形で、一定の有害サイトにアクセスできなくする(フィルタリングという)、②ネット上、有害サイトを特定化し、これをブロックする(ブロッキングという)等の技術的手法が存在し、これをうまく活用することが一見制度上可能のように思える。フィルターリング・ソフトは例えば親が子供によるネット上の有害サイトへのアクセスを禁止したり、自らの判断により一定の有害サイトへのアクセスを拒否したりするなどの場合には有効になる。技術的にはフィルターリングすることは可能でも、誰が、どの段階で、何のために、またどのようにフィルターリングするのかを考えた場合、制度的には必ずしも有効な手段とはならない。
では、ブロッキングはどうであろうか。ネット上のコミュニケーションとは、情報の提供者と受領者が、お互いにIPアドレスを特定することにより、コンピューター(ルーター)が情報の「パケット」を適切な目的地に送り届けるという考えでもある。IPアドレス(インターネット・プロトコール・アドレス)、URL(ユニバーサル・リソース・ロケーター)によりこれが実現する(ブロッキングとは、プロバイダーが全ユーザーの接続先URLなどの通信内容を、機械的とはいえ監視して、不適切な内容かどうかを判別して、遮断してしまう仕組みのため、通常であれば通信の秘密を侵害する違法行為にあたるリスクがある)。URL自体はウエッブ・ページの表示ではなく実態はIPアドレスを構成する数字の集まりである。では、ある特定のサイトやコンテンツが有害、違法と特定された場合、如何なるブロッキングの手法があるのであろうか。
二つの手法があるといわれている。
① アプリケーション・レベルでのブロッキング:
有害なURLを特定化することにより、特定のウエッブ・ページないしはFTP(ファイル・トランスファー・プロトコール)をブロックする方法である。顧客に対しネットへのアクセスを提供するインターネットサービス・プロバイダー(ISP)がかかるブロックを実行できる。このためには、プロバイダーは、顧客によるネットへのアクセスをプロクシー・サーバー経由受領し、プロクシー・サーバーが顧客のURL要求をブラック・リストと照合し、顧客のアクセス要求を拒否するという仕組みになる。シンガポールや中国等でかかるブロッキングの試みがなされている。もっとも、非標準的なアドレス構成やサイトをリネーミングしたり、サイトが偽装されたりした場合にはブロックは難しい。今やIPアドレスを意図的に隠すことができる簡易ソフトウエアも無料で出回る時代である。悪意をもった場合、事は単純でなくなる。また、プロクシー・サーバーの信頼度、ブロックの失敗等技術的な問題もある。またプロクシー・サーバーを持っていないプロバイダーには追加費用がかかると共に、プロバイダーがコンテンツをどう評価し、ブラック・リストをアップデートし、これを維持するかも大きな課題になってしまう。勿論、そもそも、誰が、どの様な判断基準でブラック・リストを作成し、アップデートし、提供するのかという課題もある。
② パケットのレベルでのブロッキング:
ルーターが情報提供者のIPアドレスを検証し、提供されるブラック・リストとこれを比較し、一致した場合にブロックする手法である。ルーターは、パケット情報を取得し、これを目的地に近いアウトプット・ポートに届ける役割をする。このためにルーターは、パケットをチェックし、IPアドレスを読み、一定のルーテイング・テーブルと比較し、もっとも近いアウトプット・ポートを選定する。一般的にはルーターは、パケットの目的地アドレスしか検証しないが、パケットに内在するソース・アドレスをも検証することができる。これにより、ルーターは、このソース・アドレスを、禁止ソースとなるブラック・リストと比較でき、一致した場合、ルーターはパケット情報をアウトプット・ポートに送らないわけで、エンドユーザーは情報を受け取れなくなる。もっともインタ-ネットのコンテンツが外国のサーバーにあるとしたならば、特定のプロバイダーのみに海外からのネット・フローを集約して、管理することは不可能に近く、必ず漏れが生じてしまう。また、パケットのレベルでブロックした場合、電子商取引一般を規制することに繋がり、否定的な影響を与えかねないと共に、ブロックの為の追加費用がルーターにかかってしまうという課題もある。
いずれの方法にせよ、プロバイダーがブロックできるように、①誰かがブラック・リストを作成し、②このリストを関係者に配布し、③サイバー世界を不断にチェックして、これをアップデートし、維持することが全ての前提となってしまう。かつプロバイダーが禁止サイトをブロックできる権限を法的に担保する必要がある。よって、誰かが常にサーバー世界をモニターし、ギャンブル・サイトを特定化する必要があるのだが、単純な作業にはなりそうもない。技術的にはいずれの方法も一定の効果は期待できるとはいえ、完璧な手法ではない。ブロッキングをすることは制度的にもまた技術的にも、現状では単純ではないということに尽きる。