インターネット賭博は、国境の概念を超えるサイバー世界で行われる行為であるがために、一見、規制や管理が不可能なようにみえる。一方、逆説的だが、デジタル社会のもう一つの特徴であるデータ記録の管理の容易さやトレーサビリテイーをうまく制度や規制に活用することができれば、場合によっては陸上設置型カジノやその他の賭博種以上に透明性が高まることになる。この考えに立つことにより、効果的な規制の在り方を考慮することも不可能ではない。
これは下記理由・背景による。
① 個人情報を正確に捕捉することがサイバー世界での決済の前提になる:
サイバー世界の賭博の決済は全てクレジット・カードやデビットカード等の手段を用いることを基本とし、実際の口座開設に個人情報や決済に関する情報を登録することが全ての前提になる。この場合、個人情報を登録する段階で、賭博行為への参加の有無に拘わらず、参加する個人を確実に特定できることになる。虚偽の決済情報でないことは、予めクレジット・カード会社からの支払い保証を取り付けることにより瞬時に確認できる。ネット上の取引とは、決済関連情報の登録という行為を通じて、顧客の個人情報を正確に捕捉することを可能にする。即ち、不特定多数の顧客との取引とはならず、ネット事業者にとっては、個々人の顧客を特定化した取引になる(顧客の立場からは不透明だが、施行者側から見ると顧客の詳細を把握できる取引となる)。
② 全ての取引及び取引に伴う決済関連情報はデジタル記録として保存できる:
登録された全ての顧客情報及び顧客の全ての取引記録及びこれに伴う決済記録を(顧客には解らないが)デジタルに把握し、この情報を一定期間保持することはいとも簡単にできる。実際の賭博行為の記録とこれに伴う決済関連情報を全て記録として管理することにより、全ての金銭取引を透明化することができる。これら記録が改ざんされなければ、如何なる取引があったのかを過去にさかのぼり再生し、検証することができる。全ての賭け金行動と決済の実態を正確に記録することは陸上設置型カジノでは不可能だが、インターネットの環境では逆にいとも簡単にできることになる。勿論、全てのネット施行者が任意に取引記録を保管するわけではなく、規制等により義務化されれば、簡単にできるということでしかない。
③ 取引記録を改ざんされないようにし、かつ規制当局が記録を把握すれば、全てが透明化する:
上記全ての情報が改ざんされない管理の仕組みを考慮することは取引の廉潔性を確保するためには極めて重要になる。このために取られる手法としては、顧客管理データと取引データが施行者のコンピューターにインプットされると同時に、事業者にはタッチできないブラックボックスに情報をコピーし、留め、規制者のみがこれにアクセスし、管理できるような仕組みを設けることが一部の国では実践されている。あるいは、オンラインで全てのデータを規制当局に送り、規制当局が全てのデータにアクセスし、記録できるようにする等の手法もある。当然のことながら、このために、事業者のサーバーを自国内に設置させ、規制機関がシステムや機材等を認証し、随時監査・検査することが前提になる。
④ 決済情報が透明化されれば、脱税、いかさま、不正はまず起こりえない:
金銭預託、賭け金行為、勝ち金支払等の全ての記録を把握することにより、規制当局は、顧客の勝ち負け、事業者の勝ち負けを正確な記録として把握できることになる。これに伴い、課税行為を確実に、かつ正確に、また自動的に実行できる。かつ取引記録をトレースすることにより、異常な賭け金行動や、不審な決済行動が無いか否かを随時チェックすることができる。
⑤ 取引を第三者の監査法人等が監査・検査することにより、廉潔性や安全性を担保できる:
全体のシステムや会計記録等の内容を定期的に第三者監査法人や規制機関が随時、ないしは定期的に監査・検査を実施する体制を取ることにより、取引の透明性は格段に増すことになる。ネット事業者レベルでの不正やいかさまは、これにより排除することができる。
勿論上記は、ネット賭博事業者を一定国の規制と免許の枠組みに囲い込み、この枠組みの中で規制の対象にした場合、初めて機能できる考え・手法でしかない。かつ、サイバー世界に国が認証を与えたサイトと、そうではないサイトの二つの領域が存在することを意味し、国民が認証を受けた事業者以外のサイトを利用する場合には、廉潔性は担保されないし、国民も保護することはできなくなる。認証を受けていないサイトや違法サイトには危険があることを国民が認識し、適切なサイトを選択するという行動があり、初めて全体が機能する考えになる。