インターネット賭博を認知し、これを規制する現代的な、かつ精緻な規制モデルが段階的に生まれてきたのはここ10年来の事象でもある。これは(米国ではなく)主に欧州諸国により試みられてきたのだが、アプローチやライセンスの考え方として、二つの類型がある。
① オープン市場型ライセンス・モデル(英国、マルタ等):
制度としてはかなり自由度のある考えになる。自国のみならず、サイバー市場全体を事業者の事業領域とする前提をとる制度になり、自国にサーバーを設置させ、管理、規制、監視すると共に、事業者に課税するが、あくまでも自国に活動の拠点をおかせつつ、当該事業者の活動領域に規制を設けることなく、対象市場をサイバー世界全体とする考えになる。かつ一定条件を満たす事業者は数を制限することなく、ライセンスを付与することを前提とする。例えばマルタでは、自国民の為にインターネット賭博を認めるほど国内市場があるわけではなく、当該ライセンス事業者の市場は欧州全体、世界全体(サイバー世界)となる。英国では、自国民を保護することが制度の目的ではあるが、一定の基準を設け、ライセンスをお墨付きとして付与することにより、グローバルなサイバー世界でも活躍できる事業者を育てることができうれば、サイバー世界におけるサービスの輸出にもなるとする制度になる。勿論他国との間で、制度上の問題を引き起こす懸念が無いわけではないが、本来サイバー世界に国境は無いとする考えに立脚するのであろう。英国及びマルタでは、事業者はサーバーをこれらの国内に設置し、ソフトウエアと共にサーバー・プラットフォームの認証・監視を受けることが義務づけられている。また、定期的にゲームの結果や決済関連情報等の全ての情報を規制当局に供出する義務がある。一方、これら両国はいずれも、事業者のサーバーをオンラインで規制当局とリンクし、リアル・タイムで監視・規制するという考えはとっていない。カリブ海の低課税国の制度は、規制のレベルは比較できない程甘く、その是非は議論の対象にはなるが、類似的なオープン市場型の規制モデルになる。
② 制限市場型ライセンス・モデル(フランス、イタリア、北欧諸国等):
上記とは異なり、あくまでも自国民に対する保護を目的とし、自国市場のみを対象とし、自国内に専用プラットフォームを設けさせる前提で事業者にライセンスを付与し、これを監視し、規制する考えになる。自国でライセンスを付与し、不特定多数の他国を対象としたサイバー空間でサービスを提供させるという考えではなく、サイバー世界の中で、一定領域をくくり、この仕組みの中でのみ事業者に活動させ、自国民にネット賭博を認めるという考えになる。この前提で、①ライセンス総数(事業者総数)を制限する、あるいは②特定の公的主体あるいは特定許諾主体のみに制限的に、かつ独占的にしか認めない等という考えもある(但し、独占性を付与する考えは欧州では段階的に崩れつつある)。一方、イタリアでは、欧州域内の外国事業者が、イタリア規制当局の認可を受け、外国にサーバーを設置し、イタリアの規制当局がオンラインでこれを監視・管理することをも認めている。事業者に規制の対象を当該国の国民に対するサービスと限定していること、外に対して事業者が活動することを前提とせず、あくまでも国内規制、国内における国民に対するサービスとして規制の対象としていることがその特徴になる。この意味では制度自体が国単位で閉鎖的である。尚、ある事業者が例え別の欧州諸国でライセンスを取得していても、自国の市場に参入する場合には、別途自国の規制当局からライセンス取得が義務づけられることになる。必ずしもオープンとは言えないが、国内市場の規制緩和の一つの在り方でもあろう。北欧諸国も国毎の規制システムを前提に類似的な部分的市場開放を志向しつつある。
いずれの国も許諾はゲーム種毎になり、認可事業者がなんでもできるということではない。例えば、インターネットによるスポーツ・ベッテイングやインターネット・ポーカーは認めるがインターネット・カジノは認めないとする国も多い。あるいは、許諾は必要だが、ほぼあらゆる類型の賭博種を認める国もある。欧州では、この様に、異なった考えに基づく、インターネット賭博を認める制度が存在する。これらのうち、過半の国は、国単位で閉鎖的な形での規制を志向していることが現実である。市場は国毎に管理されながら、段階的に規制が緩和されていることになる。これも新たな趨勢なのであろう。