現在欧州全体では、庶民がアクセスできる14,828のインターネット賭博サイトがあるといわれ、未だにこの85%がライセンスも認可もされていないサイトになるという。また、インターネット賭博を制度的に認めている国もあれば、認めていない国もあり、市場全体が極めて分散化、分断化し、様々な制度が混在している市場になっていることが現実となる。2006 年から2008年にかけて、欧州委員会は、欧州主要国に対し、オンラインによるスポーツ・ベッテイングの国内における供給体制につき、様々なEU法違反に伴う理由付意見書を送付し、欧州法違反手続き(Infringement procedures)を開始したという経緯がある。これはインターネットによる一部賭博行為の提供を単純な商行為と見なし、国内における独占体制を見直し、市場をEU加盟国の事業者にも開放することを迫る内容であった。この意味では、欧州委員会はインターネットによる賭博の是非を問うているわけではない。2012年現在でも、この問題につき、4つの欧州法違反手続きを抱え、28の様々な民間主体からの欧州委員会宛ての提訴(クレーム)が存在する。一方、EU委員会は、2008年フランスが議長国の際、主要国からなるワーキング・グループ(Council Working Group)を組成し、インターネット賭博の在り方につき検討を開始し、制度や慣行の差異や類似性を纏めた。2009年スエーデン議長国の際には、オンライン賭博の社会的課題が議論され、2010年スペイン議長国の際は、違法インターネット賭博の規制の在り方が議論され、2011年ベルギー議長国の際、シンポジウムやワークショップで意見調整等が図られた等という経緯がある。EU内部で着実に問題の検討を続けてきたことは間違いない。
欧州議会では、2009年3月10日に、国境を超える賭博行為に関してはその経済的・非経済的影響を検討すべしとの議決もなされた。これらを踏まえ、欧州委員会は2011年3月にオンライン賭博問題に関する公開意見募集(グリーンペーパー)を実施した(Green Paper on Online Gambling in Internal Market, 24/03/2011 Com(2011)128 Final,「域内市場におけるオンライン賭博に関するグリーンペーパー」)。同時にスタッフ・ワーキング報告も準備・公開され、これが欧州委員会としての現時点に繋がるポジションペーパーの如きものになる。この公開意見募集の目的は、幅広く利害関係者から意見を募り、議論のベースとするもので、EUとして何等かの規制の必要性があるか否か、この分野における経済の実態はどうなっているのか、政策論としてインターネット賭博をどう措置すべきかなどを検証することが意見徴求の目的でもあった。賭博政策の分野に関しては欧州委員会としては初めての行動になるが、賭博政策全般を取り扱うものではなく、既に現実に存在している、国境を超えるインターネットによる賭博サービスの在り方のみに注目した政策の在り方を議論の対象にしたことになる。
2011年秋には利害関係者からの意見聴取を終えているが、EU委員会自体は、一つの方向性として、EU全域をカバーする最低の標準が規範として必要ではないのかという認識に立った。一定の規範を設けつつも、一国がこの規範以上厳格な措置を取ることを認めるもので、場合によっては禁止も一つの政策的選択肢として許容されることになる(一種のEU広域規範~ Wide Framework~とでもいうべきものになる)。方向的にはEU委員会はこれら諸意見を踏まえ、2012年10月に、「オンライン賭博の包括的な欧州フレームワークに向けて」(“Toward a Comprehensive European Framework on Online Gambling”)と題する報告書を纏め、何等かの緩いインターネット賭博の規範的な枠組みを考慮することを提唱し、同年12月から専門家会議を招集し、2年の期間をかけ、今後の行動計画を纏める予定になっている。
尚、欧州域内では、フランスの指導により各国オンライン賭博規制者間での二国間協定が締結されつつある(仏ARJEL~伊AMMS、英Gambling Commission~仏ARJEL等)。これは市場をお互いに共通化するという連携ではなく、あくまでも情報交換、規制機関同士での協力等になるが、違法ウエッブサイトのブラック・リスト化、摘発とブロック、規制の在り方等に関し、欧州域内で協力する関係ができつつあることを意味している。またこれと共に、2011年6月には4ヶ国のオンライン規制者(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)が規制者会議を開催し、やはり協力と協調を確認しており、インターネット賭博規制者間での横の連携・協力が実現しつつあり、これが新たな欧州内の枠組み形成に影響を与える側面も生まれつつある。
現状欧州内部では、オンライン賭博を制度として認めている国は(一国における独占供給をも含めると)、英国、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、デンマーク、アイルランド、ベルギー、オーストリー、フィンランド、スエーデン、オランダ、ルーマニア等になり、現状は禁止だが検討中の国は、スイス、ブルガリア、エストニア、ポーランド、チェコ、ギリシア等であり、禁止を主張している国は、ドイツ等少数派でしかない。かつこれらの国々でもインターネット賭博を制度的に認めようとする動きがあり、欧州全域で認められることになるのも時間の問題になりそうな様相にある。