フランスでは伝統的に市場に提供される賭博種の量と質を管理の対象とし、賭博行為の供給を厳格に管理してきたという経緯がある。一方、インターネットの登場で国境を越えて、規制や管理の対象にならない形での賭博種の提供が市場にて大きな需要を喚起するに至り、違法なネット賭博が横行してしまったのが2000年以降のフランスの事情であった。インターネットを利用した賭博サービスは、競馬・スポーツブックを独占していた国営会社であるPMU社(Pari Mutuel Urbain)やロッテリー賭博を独占していた国営会社である FDJ社(Francais des Jeux)が独占的に提供しており、パリ・ミュチュエル賭博の分野ではインターネットは既に使用されていたというのがフランスの実態でもあった。この国営会社によるほぼ商業行為に近い賭博サービスの独占が、欧州委員会によりEU法違反とされ、紆余曲折の結果、フランス政府は2008年6月11日の閣議決定により、新たに制度を設け、インターネットによる賭博を、賭博種を限定し、許諾し、規制する方向に方針転換を図った。諮問委員会の議を経て、2009年3月に法案が議会に上程(法案1549号)され、2010年1月に実質的審議に入り、同年4月6日に可決、成立した(「オンラインによる金銭ゲーム、僥倖のゲーム業を認め、競争に付す法律2010-476号」~Loi N 2010-476 du 12 mai 2010)。
許可対象となるゲームは1)スポーツ・ベッテイング(固定オッズとパリ・ミュチュエル式)、ライブ・ベッテイング、2)競馬(パリ・ミュチュエル方式のみ)3)(現金及びトーナメントを含む)オンライン・ポーカーのみとなる。ロッテリーは上記法の枠外になり、国営会社FJD社による独占市場になる。1)から3)はライセンス方式による許諾となるが2)も実質的にはPMU社の独占に近く、1)と3)及び2)の一部が市場開放されたことになる。また、スプレッド・ベッテイング並びに通常のカジノ・ゲームは除外され、禁止されたままである。この意味では、英国やイタリアのように、より純粋な形で全てのインターネット賭博をオープンに、ライセンスにより認めるという政策とはかなり事情が異なる。但し、制度的枠組みとしてはユニークな考え方が採用され、新たな制度的動きとして欧州内部では、着目を浴びた。実際のライセンス付与は、2010年6月11日(ワールドカップサッカーの開催3日前)、11の事業者に17のライセンスが付与され、翌日から市場がオープンとなった(申請は35あり、全てが認可されたわけではない)。同年10月の時点では認可は41事業で37の事業者となり、2012年時点では26事業者が認可を得て、事業を行っている。
下記が主たる特徴になる。
① 許諾の対象となる賭博種は、僥倖をベースにしながらも、顧客のスキルに依存するゲームをその対象とすることで、依存症に至るリスクが最も少なく、かつ市場にて強い需要がある賭博種に限定している。この意味では限定的な市場開放になり、全てのゲームが可能というわけではなく、極めて制限的になる。ライセンスの期限は5年、更新可能である。
② 大蔵省傘下に新たに規制機関としての「オンライン・ゲーミング規制機構」(ARJEL., Autorité de Régulation des Jeux en Ligne) )を設置し、同機構がライセンス申請を受け、審議し、ライセンスを付与する。事業者の数は限定しないが、対象となる賭博種毎に、国が要求仕様・条件を厳格に規定し、これを満たす事業者のみがライセンスを取得できる。
③ 規制機関となるARJELは、独立した規制機関として構成され、7名の委員による委員会として構成されている(委員長は大統領令による指名で6年の任期、他の委員は3年毎に半数が交替)。専門家を含む小委員会を構成でき、法・規則等の違反行為に対する罰則・罰金等を判断する懲罰小委員会(委員6名、国務院2名、破棄院2名、会計検査院2名から構成)、特別小委員会(委員4名以下)がある。職員数は20名で、仕事量に比較し、限られるため、実効力のある規制が実現できるかに関しては懸念もある。
④ 税は施行者の勝分ではなく、顧客の名目的賭け金(Stake based)に対し課され、2010年以降、スポーツ・ベッテイング、ライブ・ベッテイング等は7.5%(但し、追加的に1.3%をフランス・スポーツ開発センターに拠出し、かつスポーツ・イベントを主催する団体に、一定率を「スポーツ権」として支払う~2010年は約1%~義務があり、実態は12.2%程度となる)、競馬は6.4%(但し、追加的に8%を競馬関係者に拠出する為、実態は9.6%となる)、キャッシュ・ポーカーは1.2%、トーナメント・ポーカーは1.8%となる。収益の使途は公益目的で、健康・医療、スポーツ・文化等の財源となる(その他フランスでは企業所得税(33.3%)も別途徴収される)。スポーツ・イベントをネット賭博の対象にする場合には、イベントの主催者とネット賭博ライセンス事業者がパートナーシップ契約を締結し、収益を配分する前提でこれを実現する。競馬の8%相当分は、2011年財政法(Loi de Finances 2011)により、国に直接支払う税になり、国が競馬主催者(France Galop, Cheval Francais)へ配分する仕組みに変更された。
⑤ 事業者はサーバー(プラットフォーム)をフランス国内に設置することが義務づけられ、全てのソフト・ウエア、情報システムに関するソースコード(設計仕様)を提出し、認証を受ける義務がある。また、オンライン・ゲームのトレーサビリテイーを利用し、顧客勘定を設定後、事業者に1ヶ月以内に本人確認義務を課すと共に、規制機関が全ての顧客のIDデータ、顧客の賭け金行動データにアクセスできることが前提になる。顧客データを保管し、過度な賭博行為や依存症から顧客を保護したり、賭博種毎に賭け金の上限を設定したりすることにより、ゲームの消費を規制し、マネー・ロンダリングができにくい状況とすることが義務づけられる。また、乱数発生器(RAG)とデータ記録システムは監査と形式認証の対象になる。