欧州におけるインターネット賭博許諾の在り方に関しては、オープンな制度をとった英国やマルタの動き、あるいは制限的な市場開放・規制という選択肢を取ったフランス・イタリアのどちらかの動きに収斂しうると見られていたのだが、もう一つの制度的選択肢がベルギーにて実践され始めた。ベルギーにおける賭博行為は1999年5月7日付「賭博、賭博施設及び消費者保護法」により制度的整合性が取られたが、この中ではインターネット賭博は禁止されていた。但し、その実効性が問題になり、政府は政策を転換し、、インターネットを用いた賭博、ベッテイング、メデイア・ゲームをもライセンスによりこれを認め、規制当局の所掌とすることとし、2009年12月3日ベルギー国会下院は、上記法の改正案を可決し、成立した。同改正法は、2010年2月1日官報に掲載され、選挙のためその施行が遅れ、2011年1月1日より施行されている。
上記ベルギー法制の特色は、現実の世界で提供されるリアル・ゲームであろうが、サイバー世界で提供されるオンライン・ゲームであろうが、一つの同じ制度の枠内で、全ての僥倖のゲームを適用対象にしたことにある。即ち、既存の制度の中にオンライン賭博をもオーバーラップする形で認めるという考えをとり、既存のライセンス事業者が、追加ライセンスを取得することにより、インターネット賭博をも一つの新たな領域として認める考えをとった。この結果、オンライン賭博の対象は、ポーカー、スポーツ・ベッテイング(固定オッズないしはパリ・ミュチュエル)、競馬等幅広く認められることになった。例外はロッテリーで、ベルギー政府は、これのみは、国のエージェンシーであるLotterie Nationale社に付与された独占権の下で施行されるという前提を崩していない。この結果、既存の規制主体である「ゲーミング委員会」(Gaming Commission ~Commission des jeux de hazard)が、オンライン事業者に対しても、ライセンスを付与し、規制することになった。法はオンラインでゲームを提供できる要件として、①ベルギー国内において既に、リアル・ゲームの世界において類似的なライセンスを保持している主体であること、②ベルギー国内に設置された固定的な施設の中にサーバーを設置することを要求している。即ち他国で有効にオンライン賭博のライセンスを保持している外国の運営事業者は、ベルギーにおいてオンライン・ゲームを提供する前に、オンラインと同等の実世界のライセンス(ライセンスAはカジノ、ライセンスBはゲーム・センター、ライセンスCは賭け事のオーガナイザー)を取得せざるを得ないという参入障壁があることになる。単純でないのは、市場における賭博行為の供給を制限するために、陸上設置型カジノの総数は法律上決められており、これ以上増えることは想定されていない。賭け事のオーガナイザーとしてのライセンスを新たに取得し、既存の賭博運営事業者と共同で何らかのオンライン事業をすることも不可能ではないが、ベルギー政府は、市場におけるライセンス総数を固定するために、ゲームのオーガナイザーの許諾数も制限する施策をとっている。
この結果、予め陸上で類似的な賭博ライセンスを取得していなければ何もできないため、ベルギーにおいてより早くオンライン市場に参入するより現実的な選択肢とは、現実に存在するベルギーの運営事業者とパートナーシップ契約ないしは下請け契約を締結することを目指して、交渉をすることしか手法は無い(一種のB2Bの市場が生まれることを意味する)。この理由は、実際のベルギーで運営している運営事業者は、自らが必要なノウハウを把握している必要は必ずしも無いこと、またオンライン事業者にとってみれば既存の事業者とタイアップすることにより、ベルギーに新たな子会社を設立し、資源を分散させる必要もないからである。勿論かかるパートナー契約ないしはオンライン下請け契約は認可の対象になると共に、必要に応じ、ベルギー競争法に準拠しているか否かもチェックされることになる。
既存の制度の枠内で、類似的にオンライン賭博をも認めるという考えは、参入主体を実質的に規制し、新たな事業者の参入を難しくしていることになる。これでは規制緩和や市場開放にはならず、競争制限をしているに等しくなってしまう。欧州委員会は上記ベルギーによる立法措置の一部の内容に関しては、必ずしもベルギーの立場を公正なものとは判断しておらず、その旨意見をしているが、現在に至るまで大きな問題とはなっていない。