北欧4国(デンマーク、スエーデン、フィンランド、ノルウエー)は、歴史的に社会風土や文化が類似的で、制度や政策の考え方も類似的であることが多い。賭博規制に関しても、同様で、これら諸国は、過去類似的な政策を採用してきた。即ち①賭博行為は原則国による独占により国民に提供すること、②これに伴い賭博収益は公共目的の為に国が独占することという考え方になる。この考えに従い、限られた数の国営会社が様々な賭博種を包括的に提供するという仕組みが一般的でもあった。一方、欧州委員会やEFTA監視機構、欧州裁判所、EFTA裁判所等は、これら国家による独占の仕組みに対し、疑義の念を抱くようになり、段階的に外部的圧力が高まっていった。この結果、デンマーク及びスエーデンは規制緩和・自由化に舵を切ったが、一方、フィンランド及びノルウエーは国による独占を頑なに死守するという風に明確に二分化される方向となってきている(ノルウエーはEU加盟国ではないが、EFTAとの関係で欧州条約には拘束される)。
インターネットによる賭博の提供に関しても、90年代中葉より各国毎に認められ、実施されてはいるが、上記背景の通り、限られた国営企業のみが、自国民のみを対象に独占的にインターネット賭博を提供する仕組みとなった。開かれた市場ではなく、他国の事業者の参入は認められていなかったことになる。但し、上記の通りEUの外圧等により、北欧市場は二分化しつつあり、国営企業が独占してインターネット賭博を供給している市場(フィンランド、ノルウエー、スエーデン、但しスエーデンは自由化・規制緩和を検討中)と、ライセンス制度のもとに外国からのサービス提供をも認める国(デンマーク)に二分化されつつある。
各国毎の詳細状況は下記になる。
① デンマーク:
2008年に欧州委員会から欧州条約第48条違反という「理由付意見書」を突き付けられ、政策転換を図り、2009年に法案を議会に上程、2010年に関連する4つの法律を制定した。新たに規制機関としての「デンマーク賭博機構」(SKAT, Danish Gambling Authority)を設け、従来の制限的な考え方を転換し、ライセンスを付与することで、インターネットを含む賭博施行を実質的に自由化する政策をとった。インターネット賭博ライセンスの期間は5年である。実際のインターネット賭博サービスの供給は2012年1月から開始され、2012年9月時点でライセンスを受けたオンライン事業者は45社となるが、過半は欧州系企業でマルタ、ジブラルタルを根拠とする事業者が多い。
② スエーデン:
同国ロッテリー法に基づき、様々な賭博種が認められており、オンライン賭博に関しては、2002年8月より一部非営利団体に権利が付与されたが、2003年1月より国営会社であるSvenska Spel社, ATG社にもオンライン賭博を提供できる独占的な権利が付与されている。実質的には限られた公的主体により市場が独占される形態が過去継続していたが、2008年7月に欧州委員会から欧州法違反を指摘する「理由付意見書」が出され、以後、様々な調査報告や議論を経て、部分的規制緩和・自由化の政策に転換しつつある。考えとしてはリスクのある賭博分野(カジノ、スロット、ロッテリー、オンラインビンゴ・ポーカー等)は既存の国営会社に独占的に委ねつつ、リスクの低い賭博分野(オンラインを含むスポーツ・ベッテイング)はライセンス付与を前提に自由化・規制緩和するという方向性になる。またライセンスを保持していない主体のサイトをブロックする義務をIPSに課したり、ゲーム関連支払を禁止したりする措置等もこれと並行して検討されている。
③ ノルウエー:
同国ロッテリー法(最新改定Lotteries Act 23/11/2001/1047)に基づき、殆どの賭博種は認められており、オンライン賭博も1996年以降認められている。但し、国営企業を含む三社による独占事業として構成され、海外からの参入や新たな参入を認めていない。ロッテリーはVerikkaus Oy社, スロット・マシーン、カジノ、オンライン賭博はRAY社(国営スロット・マシーン協会)、競馬・スポーツ・ベッテイングはFintoto Oy社が担い、各々の分野で独占供給がなされている。2003年以降、規制を強化しており、2003年にはVLTの独占化に伴う規制の強化、2008年にはライセンスを保持していない外国オンライン事業者サイトのブロック、またかかる事業者への支払いを違法とするなど、独占供給の体制を強化する施策がとられている。欧州委員会は他国と同様にノルウエーにも「理由付意見書」を送付したが、これに対し、ノルウエー政府は欧州法における正当性を主張し、歴史的な国家独占の考えを変える意図はないことを表明している。
④ フィンランド:
フィンランドでも、同国ロッテリー法により、様々な賭博種が認められ、国民に提供されており、カジノ、スロット・マシーン、オンライン賭博等は国営会社であるRAY社がその供給を担っている。他国と同様に、海外の違法サイトをブロックする義務をIPSに課し、かつかかるサイトのゲーム関連支払を違法とする措置が取られた。2006年以降、欧州委員会による欧州法違反提訴手続きが続いているが、フィンランド政府は欧州法には準拠していることを主張、平行線になっている。同国もまた当面国による供給独占体制を崩す意図はないことを表明している。
北欧諸国は、過去文化的・社会的価値観を共有し、類似的な制度を設けてきたが、こと賭博規制の分野では、明らかに各国毎に微妙に政策の在り方が変わりつつある。文化や社会的価値観を理由に国による供給独占を継続することは時間の問題で無理がでてくるのではないかとも想定される。