アンテイグア・バルブーダは東カリブ海の小国だが、観光が主たる産業でカジノを認める制度が存在し、観光客目当ての5つの陸上設置型カジノが存在する。一方、1996年頃より、インターネットを通じた賭博を規制し、許諾する政策を実施し始めたことで知られ、多くのネット企業は同国にサーバーを設置し、専ら北米を主要顧客とし、賭博サービスを提供することになった。インターネット賭博事業者を一つの産業として、誘致し、育成したことになる。かつこの国は、米国との間でインターネット賭博に係わるWTO係争を起こした国として有名となった。現状の制度の枠組みは、「2007年(改定)双方向ゲーミング・賭博規制」による。
上記制度に基づき、大蔵省傘下のオフショア・ゲーミング局に「ゲーミング委員会」(Gaming Commission) が設置され、これがインターネット賭博の許諾、主要関係者の認証、システムの認証、監視を担う規制機関になる。制度の概要は下記の通りである。
① ライセンス取得義務:
ゲーム種毎にライセンスを取得する必要があり、申請に伴い企業情報,役員並びに5%以上の株主情報を提出する。かつアンテイグア・バルブーダに居住する役員が最低1名は必要で、この役員は委員会に申請し、個人ライセンス取得が必要となる。申請後、調査・審査がなされ、60日以内に許諾ないしは拒否される。委員会はライセンスに条件を賦課できるとともに、一定の事象が生じた場合、これを修正、停止、はく奪できる。修正の場合には10日間の事前通告があり、これに不服の場合は、公聴会の後に判定が下される。
② 重要事項変更は全て認可取得義務:
ライセンス保持者の支配権の変更は、委員会の事前許諾取得が必要となる。また、許諾内容に関する重要な変更、例えば主要従業員・役員の変更、事業に否定的な影響を与える行為ないしはデフォルト、財政的状況の悪化、株主変更、ライセンス保持者が自ら実施するあるいは対象となるM&A等は全て委員会の事前許可取得対象になる。また、ライセンスをサブライセンスすることは禁止されている。
③ サーバー国内設置義務と規制当局による監視:
管理の為に、プライマリー・サーバーは国内に設置する義務があると共に、ゲームに関する履歴・支払い記録・債務等情報を保管する義務があり、非常用電源設置義務、コンピュータ・システムを安全なデータセンターに設置することが義務づけられている。また、これらに対し、委員会は自由なアクセス権限を保持する。
④ コンピューター管理・勘定システム許可取得義務:
コンピューターのコントロール・システム並びに勘定システムは認証の対象になる(営業開始90日前に提出し、許可を取得する必要がある)。システムを変更する場合も事前許諾が必要で、サーバー機材等も認証の対象でかつ設置場所の要件指定がある。
⑤ 欠格者排除義務:
制度上は、顧客年齢確認義務が要求され、エントリー・スクリーンに依存症に対する警告を掲示する義務があると共に、自己排除プログラムを設置する義務もある。未成年者に賭博を提供することは禁止され、病的賭博依存症者に賭博を提供することも禁止されている。
⑥ マネー・ロンダリング関連報告義務:
1996年マネー・ロンダリング法に基づき、疑わしい取引をモニターし、かつこれらを報告する義務を事業者に課している。また、顧客勘定設置義務として、一人5,000米㌦以上の支払は年齢、居住地等本人確認をしない限りできず、2万5,000米㌦以上の支払は48時間以内に関連当局に通報義務がある。
⑦ ゲーミング課税:
粗収益に対するゲーミング課税として、理論的には売上の3%が賦課される(実態は、事業者は支払っていないケースが多いという)。通常の企業所得税は40%となるが外国企業は収益を国外送金すれば支払う必要性はなく、かつまた15年のタックス・ホリデーがある。運営保証供託金として10万米㌦、ライセンス申請料として、1万5千米㌦(更新は5千米㌦)、個人ライセンス申請料は1,000米㌦、年ライセンス料として、事業者ゲーミング・ライセンスは10万米㌦/年、事業者パリ・ミュチュエルのライセンスは7万5千米㌦/年、主要従業員ライセンスは初年度1000米㌦/年、次年度以降は250米㌦/年が徴収される。
制度としては、最低の要件を満たし、ゲームの健全性・公平性は形式的に保持されていると想定できるが、実態は不明である。規制や監視の在り方は、陸上設置型カジノと比較した場合、大幅に簡素化されている。また、監視や検査は本当に厳格になされているのか、法の執行に甘さは無いのかという点は必ずしも定かではない。顧客にとってはゲーム提供主体の情報が限定され、見えにくいため、犯罪組織がかかるネットに本当に介在していないかに関しては、判断ができない側面があるといってもよい。