所謂陸上設置型の賭博施設に関しては、アジア諸国は基本的には閉鎖的で、各国毎の制度に基づき、許諾され、かつ、かかる賭博行為が認められている国は限られることが現実である。宗教上の問題や社会的な問題より賭博行為が禁止されている国も多く、アジア全体としては、バラバラな構図が浮かびあがる。一方、90年代以降持続的に続くアジア各国の経済成長は、アジアにおける富裕層や中間所得層を拡大し、旅行や観光、またエンターテイメントや賭博に対する需要を大きく成長させている。インターネット技術の発展は、アジアの様々な国々の国民にもネット社会の恩典をもたらすことになり、個人消費力の高まり、余暇への需要の拡大と共に、(認められているか否かには関係無く)実態経済の中で、インターネットを通じた賭博行為が着実に、かつ確実に巨大な市場として形成されつつある。もっともこれは、国境を越えたサイバー世界の話であり、アジア諸国の中では、一部その正当性が疑問視される国を除き、制度として、インターネット賭博を認め、厳格な規制やライセンス制度のもとでサービスを提供させている国は殆ど無い。規制や制度の在り方が不案内である以上、これを明示的に許諾することが難しいということなのであろう。一方、制度としては禁止の対象となってはいても、為政者の意思とは全く別個に、実際のアジアの諸国民は、インターネット賭博市場にどっぷりつかりつつある現状がある。市場は急速に拡大、成長しつつあるのだが、データも統計も全く捕捉されておらず、かつ公表もされていないわけで、この正確な現状を把握することは不可能に近い。
バブル期は、ネット賭博市場は、毎年2ケタ成長を続けていたと想定されているが、市場実態は把握できていない。一方、不況期にあっても、手軽にアクセスが可能なネット賭博の世界は、明確に安定的な需要層を維持しており、ブロードバンドや高速ネットの普及に伴い、アジアにおいて急激に顧客数が増大していると想定されている。現状は、世界中の様々なネット賭博事業者がサイバー・スペースから効果的にアジア言語のサイトをオープンし、アジア市場へ既に参入している。
このアジアにおけるネット市場には、下記特色がある。
① 市場は確実に存在し、成長しつづけているが、アジア全域がインターネット賭博に関しては、一種の無法地帯であって、厳格な規制も法の執行も存在しない。欧米の主要先進国では、市場の実態を正確に把握し、政策指針を明確に打ち出し、そのための制度措置に入っているが、アジアの国々はまだそのレベルには達していない。主要先進国では、禁止制度を設け、法の執行に乗り出した国や、一部ネット賭博行為の自由化へと進む欧州等全くバラバラだが、少なくとも政策的に明確な主張がなされているのに反し、アジアではこれが全くないという状態が継続している。
② マカオ、香港、マレーシア、フィリッピン等の既存のアジアにおけるカジノ運営事業者の子会社、関連会社がインターネット賭博市場に参入していることは間違いないが、マカオ、マレーシアの企業以外は、必ずしも市場において大きなプレゼンスを持っているわけではない。アジアに参入しているサイトは全て、既存のカリブ海、中南米、カナダ、オーストラリア、一部欧州諸国等でライセンスを得た事業者であり、明確に第三国から、アジア市場に参入している。但し、これら無数のネット賭博提供事業者の内、例えば日本企業等のアジアの出資者がいるか否かは正確に把握できていない。過少資本でも参入できる以上、この可能性は零ではないと共に、組織暴力団関係者が資金源として裏に存在している可能性も否定できない現実がある。尚、提供されている賭博種は、通常のインターネット・カジノ関連の賭博種が殆どになる。スポーツ・ブッキングやベット・エクスチェンジ、ロッテリー等のその他の賭博種がみられないのは、アジアの既存の国毎の独占事業者の担う賭博事業に直接抵触しうるからであろう。
③ 現実にリアル・ワールドでは、カジノは存在していないが、バーチャルな世界では金銭を賭すことのできるカジノが現存し、かつ拡大しつつある。何らの規制も制限もなく、市民に開放されているという極めて不思議な事象が生じている。カンボジアでは、違法にネット・カジノが横行していたが、2009年禁止措置をとった。シンガポール、韓国等既にカジノ賭博法制がある国でも、制度的にはネット賭博は禁止となっている。ネット賭博が市民社会の中でなんらかの問題を起こさない限り、事実も明らかにされないと共に、何らの明確な対応ができないという状態になるのであろうが、アジア諸国は欧米諸国と比較した場合、極めてバランスの欠けた地域になってしまっている。
ネット賭博を認める場合には、オープンな賭博行為へのアクセスを認めることに繋がるために、成熟した市民社会の中で賭博制度が理解され、定着していることが必須の要件になる。かつ、規制や管理の在り方はより複雑になることから、その前提として効果的な賭博の制度や規制が無ければ、ゼロからこれを構築することはハードルが極めて高くなるといってもよい。残念ながら、アジア諸国では、賭博の制度や規制が効果的になる仕組みはまだ育っていない。一方、技術の発展により諸国民のネット・アクセスはより自由になっており、制度と現実の矛盾が拡大しつつあるのが現状である。