公営賭博の不調の根本原因は、やはり環境変化や、市場自体の変化という側面が大きな要因となっている。因みに諸外国等も競馬等の伝統的な賭博は、中長期的に人気、売上が段階的に減少するという類似的な兆候を見せており、これは我が国だけの事象ではない。一方我が国では、問題はこれだけではなく、特に地方公営競技の場合には、公的主体による経営や運営の在り方が状況を更に悪化させた原因にもなった。下記問題等が指摘できよう。
① 事業経営感覚の欠如:
公営賭博は、特段の営業・経営努力は不要で、運営体制を維持さえしておけば自治体にとって財務的メリットをもたらすという考えが伝統的な自治体の経営感覚でもあった。事実、高度成長の時代は、その通りでもあったし、何もしなくても、需要は確実にあり、事業としては失敗しないという意識が根付いてしまったことが現実である。公営競技も実体は通常産業と同様に、需要が減退すれば、収支が悪化し、大きなリスクを抱えることになるのだが、事業を経営しているという考えが全く無かったのが地方公共団体による経営の実態となった。
② 環境変化への不適応:
公営競技を取り巻く事業環境は大きく悪化していったにも拘わらず、変化に対応する経営的な努力は為されなかったといってもよい。売り上げが減少した場合、運営の合理化や費用の圧縮、対顧客サービスの充実による売り上げ増への努力等がなされなければならないのだが、経営環境の変化に機敏に対応していくことができなかった。これが、事業が低迷する大きな理由の一つになった。勿論これは、公務員自身の能力の問題ではなく、制度的制約により、裁量性のある経営ができなかったという背景もある。
③ 費用管理の貧弱さ:
売り上げが低迷する場合、当然売り上げ増の努力をしつつ、費用を縮減する必要がある。一方、公務員が事業を経営する構図では、これに呼応した経費削減の試みはうまく機能しなかった。従事する公務職員の給与は高止まりになり、開催費用や選手の賞金等の開催経費も縮減できず、結局費用管理ができない体質になってしまった。この結果、年々減少する控除額から納付金を払った場合、残額で費用を賄いきれなくなりつつあるのが、過半の公営競技の実態になってしまっている。
④ 組織、人事組織上の課題:
上記に加え、公務員の人事問題がある。地方公務員は、2年で職場を交替することが基本となるが、これでは人材を育成し、経営のプロを育てることはできない。公営競技等の特殊な事業は、経営上の課題を把握するのに時間がかかると共に、ようやく理解した段階で管理者を交替せざるを得ないという構造的な欠陥があった。中途半端な人事政策、人材配置では、腰を落ち着けた経営改革に向けた努力を発揮することもできなくなる。痛みのある改革は自分の任期ではやりたくないという衝動が働いてしまうため、結局問題の先送りになってしまう。
⑤ 制度上の制約:
現行の公営競技を律する法制度は、事業を担う地方公共団体にとり制約の多い内容になる。開催日の設定や開催の在り方等に関する運営の裁量性は限定され、必ずしも自由な経営ができるわけではない。投票券の販売を促進することは射幸心を煽る行為とも受け取られ、自由な運営・経営に実質的に足かせを嵌められていると共に、施等の条件等も制度上の制約があり、積極的な営業活動ができないという事情もあった(これら制約は若干緩和しつつあるが、まだ十分な裁量性が与えられている状態ではない)。
⑥ 放漫財政経営:
本来ならば内部留保や積立金により、将来の危機に備えた慎重な経営があってしかるべきだったが、収益がある場合は、財政上の必要から目いっぱい一般会計に繰り出してきたという財政運営のあり方等も、慎重さを欠いた行動でもあった。この結果、危機に対する耐性が弱くなり、対処療法的な施策しかできなかったということも現実であろう。
公的主体による賭博の施行は、右肩上がりの経済状況の場合には、おそらく何らの問題も起こりえない。一方、経済が停滞したり、デフレや不況が長期に続いたりする場合には、致命的な問題を引き起こすことになりかねない。公的主体は環境変化への対応が下手で、ガバナンスが徹底的に甘い組織体制だからである。公営競技の中で比較的うまくいっているのは、人口密集地区である関東地区の地方競馬と中央競馬、賞品の多角化戦略により顧客を捉えた宝くじ、宝くじ化したToto程度のものかもしれず、その他の地方公共団体が担う公営競技賭博の赤字基調は変わらず、惨憺たる状況というのが実態となる。公営賭博も明確な営利事業であり、適切な経営が必要なこと、費用管理やマーケッテイング、顧客対策を怠れば、衰退しかねないということが段階的に明確化してきたのが今日的状況になる。賭博行為自体のリスクよりも、今やガバナンスの在り方がより大きなリスクとして顕在化している。これを是正しない限り、地方公営競技の再生はない。公営競技も営利事業である以上、重要なのは、コアとなる顧客市場をどう把握し、確実に顧客を呼び込むマーケッテイング戦略を実践し、想定収益規模に見合った費用管理や経営戦略を立案し、実践することなのであろう。