超党派議員連盟は一種のプログラム法であるIR推進法とこれを受けたより詳細な内容であるIR実施法という二段階での立法化を前提にした行動を採用した。立法府が方針を定め、政府をして実施のための法律制定を義務付けるという手法は他国にもあり、特段珍しい手法ではない。カジノの施行を実現する為の制度的枠組みは精緻なものとなることが想定されており、政治主導の下に政府を関与させながら、しっかりとした枠組みを立法府と行政府が連携して構築するということがこの基本的な考え方になる。もっとも、このアプローチにはメリットも、デメリットもある。
メリットは専ら下記諸点にある。
① 理念、考え方、方針等は議員立法で大きな枠組みを固め、より実務的な詳細の検討は政府に専門チームを設け検討させるというアプローチは、合理的でわかりやすい。
② 法案も内容的に単純で、議員の賛同を得やすい(詳細は政府を巻き込んで、後刻検討すればよいし、実施法も最終的には議会において議論の対象になる以上、全てを政府に委ねるわけではない)。
③ 実施法策定の手順や考えをオープンにせざるを得ないため、政策決定のメカニズムがより透明化し、国民に対し明らかになる(従来ならば阿吽の呼吸で主務官庁を予め政治的に決め、これを裏で政治が動かすという手法が採用されるのだが、これでは、単なる省利省益の為の制度に繋がりかねず、かつ、透明性にも欠ける)。
一方、下記デメリットもあろう。即ち、
① 理念や方針、手順のみのプログラム法である以上、中身や詳細は実施法に委ねられるため、概念の議論が中心になり、中身の議論は極めて薄くなる。一端これを認めれば、議論も無しに、なし崩し的に実施法へと繋がりかねないという反対が起こりうる。また、実施法の枠組みの中で議論すべき内容に関して反論しても、議論がかみ合わなくなる。
② 手順的にどうしても時間がかかる(行政府が立法府の意向を忖度して、予め事前検討をするなり、検討準備に入っていれば、この時間は短縮できるが、推進法により初めて検討を開始するでは、行政の対応はどうしても遅れて、時間がかかってしまう。
③ プログラム法とは、本来、実施法の大枠と考え方を立法府や行政府が共有して、初めて実現できるものであって、推進法と実施法が切り離され、全く何もない所から実施法をゼロから作るというわけではない。立法府の構成員が変わらず、同じ考えを議員が共有しているからこそ一定期間内に実施法を作れるという判断に繋がるのだが、議会の構成員が変わったり、推進法の議論と策定にあまりにも時間をかけすぎたりすると、焦点がぼけてしまい、更なる時間を要することに繋がりかねない。この結果、議論が迷走し、焦点が絞れなくなるリスクが生まれることになる(2012年時点での民主党の迷走はこの典型的な事象でもあった。議論のための議論をし、議論をコントロールできなくなる事象が生じたことになる)。
④ 推進法は議員の意思として議員立法として構成されるが、実施法は政府にその作成を委ねるため、閣法となる。IRに関する実施法は、従来の公営賭博制度とはかなり異なる内容となるため、その策定を全て政府に委ねた場合、現実とは遊離した保守的な規定になりかねない。政治が判断すべき項目もまだ多く存在し、IR実施法が実現するまでは、立法府が何等かの形で責任をもって枠組み形成に関与することも必要な要素となる。この為には何らかの仕組みが必要であると共に、強いリーダーシップが政治に求められることも間違いない。
デメリットが多いのは、二段階立法化を必要とするほど、複雑な法律で、慎重な検討が必要な内容であるために、時間と検討の手順を必要とし、どうしても単純にはならないという背景があるからである。かつ、推進法は理念と方針を定めるが、その次の実施法の為の青写真を超党派議連として確実に固めた上でなければ、次のステップへとスムーズに移行しないという事情もある。いずれにせよIRを実現するためには、立法府と行政府による緻密な協力、連携が必須の要素となり、政治のイニシアチブやリーダーシップが必要になると共に、主務官庁にしっかりとした体制を設け、関連しうる省庁との協力・連携・調整を緻密に行うことも必須の要素になる。