超党派議員連盟が起草したIR推進法(案)、あるいはそのベースとなったIR実施法(案)(2010年7月超党派議連会長私案)は、①特定複合観光施設としてのIRの設置数を限定し、全国津々浦々にある施設とはしないこと、②当初設定される区域数は限定的にし、段階的に施設区域を増やすこと、③その際、地域の特性や地理的偏在性等も区域選定判断の考慮の対象になることを示唆している。勿論法案が確定し、上程されていない現段階でこの枠組みが今後どうなるかを断定することはできないが、大きな方向性に関しては既に与野党を含む政治的な合意形成ができていると考えられている。一方、この考えを前提とすると、大都市~地方都市間での区域指定のための都市間競争があり得ること、その際、地方都市は必然的に不利になるのではないかとか、地方都市でかかるIRの事業性が成立しうるのかとする様々な懸念や議論も存在する。
当面設置する区域数を幾つにするか、区域の設置判断基準をどう定義するか、一定の前提のもとで公平、公正な区域選定のための枠組みができうるか等は優れて政策的な選択肢でもあり、かつ地方公共団体にとっては重大な関心事になる。今後後IR推進法が成立し、これをもとにIR実施法(案)が策定される過程において、多くの地方公共団体が、国に対し、意見できる機会もあることが想定され、様々な議論が起こりうる。但し、現時点でも考慮すべき側面を特定できると共に、地方都市にとってのIRの在り方を考えていくことも有用であろう。
一般的にIRの事業性とは、対象となるIR区域を取り巻く市場環境や当該地域の観光特性並びに、施設群や提供されるアメニテイーの在り方によっても大きく左右される。事業性の可否は条件設定次第とも想定され、下記諸側面等にあると考えられる。
① 対象顧客・対象市場:
主要対象顧客は来訪客か地元客か、観光客かビジネス客か。如何なる顧客層を期待し、これをどう集客する戦略を取ることができるか、どの程度の市場規模を考えるか、また様々なアメニテイーを含む顧客支出レベルをどう考えるか等になる。
② 対象施設群、アメニテイー・サービスの在り方:
対象顧客を支える施設群とその機能、アメニテイーやサービス・コンテンツをどう定義し、如何なる施設を実現するか、また顧客の満足度を満たす様々な仕掛けをどう工夫するかという点と共に、これらを考慮した総投資規模と想定収益とがバランスするかという課題になる。
③ 地点・地域の地理的、戦略的環境:
空港、高速道路、一般輸送機関等の交通の利便性が確保され、アクセスが容易で、かつ周辺地域観光資源とのシナジーをどう期待できるかという課題である。
一方、地方都市において企画・立案、実現を考慮する場合には、(大都市と同じ前提であるはずがなく)、地域なりの特性に鑑み、下記点を考慮し、前提とすることも必要である。
① 地方都市におけるIRの特性:
地方都市における固有の観光特性をどう補完できるのか、如何に顧客を集客し、消費を活性化することができ、何が地域社会にとってのメリットとなるのか、IRは地方都市なりのメリットなり長所を生かせることができるか等という問題になる。地方都市における地域・地点の選定やその戦略性も、地域のIRをどう捉えるかという問題にリンクする。
② 上記を考慮した対象顧客と施設構成・施設規模の在り方、また想定収益レベルと投資規模のバランス:
地方都市のメリットを生かした施設構成や投資規模、これに見合う収益規模等が重要になる。これに伴い、大都市の考えるフルセット型のIRではなく、地域らしい、独自色の強いIR施設群等も想定できることになる。
大都市と地方では環境も条件も大きく異なり、一般論としてのIRや、大都市でイメージされるIRがそのまま地方都市にスケールを小さくすれば適用できるというものではない。地方都市の場合、施設群の固有性が強くなると共に、投資規模も巨額ではなく、かつ施設群のコンテンツは大都市とは異なる魅力や新鮮度があるべきなのかもしれない。地方都市は地方都市なりに、市場性を評価し、施設構成や施設規模、アメニテイーの在り方を工夫することにより、事業性のあるIRを想定することができる。ここに地方都市ならではの知恵や創意工夫の余地があると前向きに考えるべきであろう。