超党派議連の考えに基づく複合観光施設区域(IR区域)と呼称される区域指定は、数が限定されるため、地方公共団体の申請により、国がこれを指定(選定)する手法が考慮されている。想定される具体の手順としては、主務大臣が、指定に関する基本方針を定め、選定判断基準や手続きの詳細を策定する。これは閣議の議を経て、決定され、その後地方公共団体による申請が募られ、主務大臣が最も政策的適合性が高い計画・提案を採用し、指定することが想定されている。数ある計画・提案の中から最適な提案が選定され、当該地方公共団体が、国の指定を受け、初めてカジノを含む複合観光施設(IR)の誘致を図ることができる。よって、カジノの実現を欲する地方公共団体や地域の努力は、まず国の指定を得ることに向けられるべきとなる。ではこのためには、地方公共団体は一体何をすべきであろうか。
下記を考慮すべきであろう。
①基本的なビジョンを固める:
まずカジノありきの発想では必ず失敗する。特定地域の開発行為に絡めた地域としての観光振興や地域振興を企図する開発のビジョンがまず考慮されるべきであろう。勿論かかる政策を企画立案できる主体は地方公共団体以外には無い。まず地方公共団体が、自らの中長期インフラ整備計画や観光振興計画等の地域経営施策の中で、観光やエンターテイメント、コンベンションや様々な集客施設等が集積する地域となる複合観光施設(IR)区域を地域全体の長期ビジョンの中で明確に位置付けるべきである。地域社会の中で、如何なる区域を対象として、どの様な開発行為や開発行為に伴う商業活動を地域政策として打ち立てるかを一つのビジョンとして固めることが必要な第一歩となる。
②戦略を固める:
様々な制約要因や前提条件をある程度把握し、どうしたら上記ビジョンを現実のものにできるかを考えることになる。この段階で何が欠けているかを認識し、どうすればよいのか、ビジョンを実現するためには如何なる手法や選択肢がありうるかを検討する。高規格の商業的エンターテイメント施設や様々な集客施設やコンベンション施設が集積した施設群を前提とする場合、アクセス・インフラや関連するインフラも、同時並行的に考慮する必要がある。単なるイメージだけでは実効性に欠けることになり、民間の役割や、行政の最低必要な関与等も考慮した上で、実現のための戦略を固める手順が必要になる。この段階で如何なる機能が期待され、この為に如何なる施設群が必要とされ、如何なる顧客を想定し、どう集客できるかの基本的な戦略が必要になる。
③情報を集める、市場性・事業性を検証する:
如何なる戦略も絵に描いた餅で終わる事の無いように、制約要因に配慮しつつ、その実現可能性を検証するステップを踏むことが賢明なアプローチとなる。実現可能な枠組みとしてその内容や期待される機能の一部を調整したり、変更したりする手順を取ることになる。開発行為が民主導の投資を前提とし、開発を担う民間主体に一定の投資リスクがあり、あるべき機能や期待される施設群が要求される場合、ある程度市場における参加者や投資家による興味をチェックし、想定される事業の市場性や事業性の判断を検証することは重要である。施設群がもたらす一定の事業性や、市場性が検証され、初めて戦略が実現に近づくことになる。企画や実現の枠組みを策定する公的部門が投資リスクを担うわけではないために、現実とのギャップが広がらない配慮が必要となる。勿論この段階で、制度や規制の大枠が固まっていなければ、市場参加者もリスクを判断できないし、市場の規模を推定することは難しい側面がある点に留意すべきである。
④具体の施策方針を固める(実現のためのマスター・プランを作る):
一定の市場における反応を確認後、求められる機能の在り方を、再定義し、あるべき地域開発のマスター・プランと民間主体に期待される役割、実現のための手順、実現のための工程表を全体計画として纏めることになる。この時点で、何が要求されることになるかを正確に把握し、定義し、公表することにより、公的部門の意思を市場参加者が確認できることになる。これにより、当該施設の実現可能性も高まる。市場における参加者や投資家の意欲を喚起する何らかの積極的なアプローチをこの段階ですることも実現の為に功を奏することがある。
⑤地域社会の合意形成を図る:
実現のためのマスター・プランやその直接的間接的効果を広く市民や、市場に情報提供することにより、地域社会の合意形成を促すことができる。地域社会の住民が、当該複合観光施設(IR)が観光振興や地域振興に果たす役割やメリットを正確に理解し、これを支持したときに、初めてIRは実現への一歩を踏み出すことができる。
上記の様に、まずカジノありきではなく、地域社会の中で、かかる複合観光施設が果たしうる役割や機能を地域の長期的な施策の中で明確に位置付け、これを段階的に実現するための手順や努力が地方公共団体には求められることになる。