日本語で、インターネット上、カジノ等の賭博行為を遊べるサイトは今やかなりの数に上る。英語を含めれば数千以上のサイト数になるが、主要サイトには言語オプションがあり、日本語で遊べることは間違いない。但し、通常はクレジット・カード情報等を要求され、一定の個人情報を登録し、一定の金額をクレジット・カードから引き出して預託し、初めて実際のゲームを遊べるという手法になる。統計データも何もないが、海外のネット賭博事業者によると、日本はアジアの中でも成長市場で年々二桁台の成長を示す、巨大な市場になっているという。制度や規制の在り方とは別に、実際の市場が生まれてしまっており、規制がこれに追い付いていけていないのが現実であろう。
我が国では、賭博行為は刑法によって禁止されており、国内では賭け事を提供すること(賭博開帳)も、単にこれに参加すること(単純賭博)も禁止されている。よって、かかるサイトは我が国発ではありえず、全て外国発のサイトになる。一方、かかるサイトは、その発出先がいかがわしいサイトから、一定国の制度・法律により、ライセンスを取得し、その国としては合法的な行為になるというサイトも存在し、これらが混在している。賭博を提供するサービスと賭けをする行動が国境を越えて、かつコンピューター、インターネットを通じて行われることになり、ひとつの行動が一国内で完結しないことになる。これが犯罪なのか、どう犯罪として構成できるのかについては微妙な問題も存在する。賭博行為である以上、我が国の法律では日本でなされていると判断されれば明らかに違法となってしまう。日本人が、日本においてインターネット賭博に参加することは、違法ではあるが、これを犯罪として摘発したりすることができるかは、極めて難しいし、まずありえないという事情もある。(提供者は国外にあり、かつ個人の自由なネット世界での行為は現実の世界では規制できにくい)。これを国内ではなく、あくまでも外国に居住する者の行為で、サイバー世界を通じて海外から提供され、海外で行われている賭博に日本人が参加しているにすぎないと考え、日本の法律は適用外と主張することが通るか否かはかなり無理があり、問題があろう。
因みに日本人が外国へ赴き、カジノなどで賭け事をする行為は賭博行為でも、違法ではないのは、わが国の法律が適用されないからである。賭博行為は外国で行われる場合には、国外犯処罰規定(刑法第3条)の対象ではなく、罪を構成しない。この場合は海外では全く合法、同じことを国内で実行すれば違法という状況になる。サービスの供給者とサービスを受ける主体が物理的に別の場所(国)にいる事象の場合、賭博罪はどう成立しうるのかという課題でもある。
尚、賭けごとが国内の行為だという前提をとっても、単純賭博罪は単独では成立せず、賭け事に参加する者と賭け事を提供する者とが同時に必要になることより、賭博罪は「必要的共犯」と言われている。即ち両者がいて、初めて犯罪が成立する。ところが、その共犯者、すなわち開帳行為を行う者、あるいは他に賭けを行う者が外国にいる場合、かつ外国で合法的な存在である場合には、果たして本当に共犯になるのか、これは違法と断定できるのかという懸念が生じてくる。かかる行為を処罰できないとした場合には、様々な問題ある行為が生じかねない側面がある。例えば日本にいながら、国外にサイトを開いて、そのサイトを運営し、顧客は日本人主体とするが、表面上は外国からのサービス提供としつつも、実際の管理運営は日本から行うということも技術的には可能になってしまう。こうなると明らかに形式上、海外のサイトを技術的に用い、インターネットによりあたかも海外から提供されているように一見見えるが、実質的な管理運営は本邦で行われ、開帳者も賭けを行うものも日本人で、かつ日本で賭け事が行われているという実態に限りなく近くなってしまう。これでは明らかに違法であろう。技術の進展は、国境の壁を難なく崩してしまうという現実がある。海外のサイトが絡み、これに日本人が様々な過程で関与していることは現実でもあり、何が合法で何が違法となるかは必ずしも明確とはならないという実態になる模様だ。
現行の刑法は、形式論が尊重される考えでもあり、経済の具体の進展とは大きくかけ離れてしまっている。何が違法で、違法でないのか、何をどこまで規制し、何を認めるべきかに関しては、まだ十分な議論が必要のようである。