制度上は禁止の対象ではありながら、現実にはかなりの数の国民が個人のリスクで参加しているというのがインターネットを通じた賭博行為になる。今や海外から発出される日本人向けのネット賭博サイトや、日本語に対応した賭博サイトは数多い。それだけ、潜在的な需要も大きいということでもあろう。一方、賭博行為への参画は現行法規から言えば明らかに違法となるのだが、法の厳格な執行もなされておらず、サイバー世界は効果的な規制や法の執行の手法がないために、一種の無法地帯となってしまっている。ゲーミング・カジノを新たな賭博制度として認めるならば、インターネット・カジノをも規制の対象にすることで認めればよいではないかとする単純な議論がある。違法状態で放置するよりは、規制の対象にし、認知する方がより制度的にも社会的にも明確になるとする考え方である。かつまた、本来であるならば課税や納付金の対象となりうる資金が不当に国外に漏出している事実を問題とする主張もある。
法的には明確な考え方ではあるが、果たしてこの考え方は現実的であろうか。賭博行為を認めること自体に、国民の間に一種の不安感がある状況において、一足飛びに、賭博行為のアクセスを制限無く認めてしまうインターネット賭博を認めることが国民の同意を得られるか否か極めて微妙な問題を抱えることになる。現実にある議論は、リアル・ゲームとしての陸上設置型カジノ賭博を、総施設数をあくまでも限定的に認めて実現し、国民に対し、その健全性と安全性に関する認識と認知を高めることを政策目的としている。まず国民がカジノ賭博の安全性と健全性を理解し、これに賛同しない限り、一足飛びにかかる賭博の在り方を一挙にオープンにする施策は中々取れるものではない。国民の理解と認識を得た後に、段階的にその内容や範囲を広げていく施策が適切ではないかとも判断される。さもなければ、確実に市場も国民も混乱するからである。
これは下記事情による。
① インターネット賭博の考えは、そのアクセスが極めて容易になることから、一挙に賭博市場を国中に拡散することを意味し、ゲーミング賭博を個人レベルで、何時でも、何処でもできることを可能にしてしまう。極めて限定的に、地理的・物理的制約のある中で、特例的に認めることが、現在考えられているカジノ賭博制度の基本的考えになるが、他方でインターネット賭博をも認めてしまうと、この基本的考えからは大きく逸脱することになってしまう。国民による賭博行為へのアクセスを一挙に広げることは、様々な派生的問題を引き起こしかねない。
② 所謂陸上設置型カジノに関する規制と監視の在り方と、インターネット賭博に関する規制や監視の在り方は、採用される考えや技術等も含めて大きな差異があり、同一に論じることは難しい。これを同時に認めて、複数の規制や制度の在り方を平行的に考え、実践することは実務的にはまず不可能に近く、かつ必ず国民の間で混乱が生じかねない。また、段階的に、着実にステップを踏まない限り、国民の理解を得られるとも思えない。
③ インターネット賭博を規制や禁止の対象にしても、結局実質的にこれを効果的に禁止する手法が無い以上、認めてしまえばよいというのもおかしな議論になる。一方、制度上、禁止であるならば、効果的な法の執行はなされるべきであり、何もせずに放置しておくというのもおかしな話である。野放図な国民に対するネット賭博の提供を規制するという意味では、有害サイトとしてのブロッキング等、消費やアクセスを抑止する合理的な手段を当面とることが適切でもあろう。勿論、インターネットによるビジネスを過度に規制したり、ビジネス自体を抑止したりする行動は本来好ましくなく、適切なバランス感覚が必要となる。
ネット賭博を解禁し、規制の対象として、これを認めることは、国民に対し、賭博行為へのアクセスを一挙にオープンにしてしまうことになる。現時点における国民の拒否反応や懸念事項を考慮すると、残念ながらこれは未だ時期早尚であるように思われる。よって、当面これを禁止、規制、ブロッキングの対象としつつ、将来的に国民のゲーミング賭博に関する認知とリスクに対する理解が進んだ段階で、欧州の様に、段階的に規制と認可の網の中に包摂し、限定的に、かつ段階的にこれを認めていく方向が現実的で、合理的ではないかと考えられる。もっとも時代の流れは早く、現状の曖昧さを放置した場合、大きな政策課題となりかねない側面はある。規制と許諾の在り方を巡っては、まだまだ様々な議論が必要であろう。
尚、インターネットの世界は、民間にとっては様々なビジネスチャンスがある新しい領域になる。一部本邦企業は、外国で正当性のある免許を取得し、日本を無視し、日本以外の外国市場でインターネット賭博市場に参入しようとする動きがある。わが国が諸外国と比し、あまりにも孤立した制度的環境にある場合、日本のみが市場から取り残されるというおかしな状況が起こりかねない様相もある。