トーナメントとは競技を前提にして、勝ち抜き方式により勝者と順位を決める手法をいう。胴元と顧客が合対峙せず、顧客同志での賭け事が行われる賭博種の場合には、胴元が一定の賭け金を含む参加費を徴収し、勝ち抜いた勝者が賞金を独り占めするという形で、トーナメントによる賭け事を提供することが可能になる。現在世界で最も人気のあるカジノ賭博は、テクサスホールデム・ポーカーであり、大々的なトーナメントとして様々な国々で実施されている。潜在的には人気のあるゲームでもあり、カジノ賭博を認める場合には、その一つの種類として当然、ポーカー・トーナメントを認めるべしという意見も多い。賭博種の一つとして認知することに、大きな問題があるとも想定できないが、問題は、トーナメント方式による賭博行為は、通常のカジノ施設のゲームとは運営方式が大きく異なるため、誰に対し、如何にこれをどう認めるべきかという課題がある。尚、ややこしいことに、下記事情を考慮する必要もある。
① 既に我が国には、テクサスホールデム・ポーカーを組織的に提供する民間事業者や団体も存在し、僅かな参加料を徴収し、国外での世界大会参加ないしはそのための支援金や滞在費補助、航空券提供等が賞品となる形で行われている。これ自体は、賭博行為とは言えない内容になるが、賞金の金額次第では、賭博と見なされることになる。これは、賭博と賭博ではない単なる競技との線引きが極めて難しくなる事象が現実に共存しかねないことを意味する。
② (賭け事の対象となる金額)+(参加料)が、通常の賭博行為としてのトーナメント・カジノにおける参加費となり、参加料は開催費用、税、開催者の収益に充当される部分になる。これら、各々の金額が相対的に大きく、多くの顧客を集客できる場合、勝者の賞金は巨額なものになる。顧客同志がゲームを楽しみ、負けた者は脱落、勝ち抜きにより、最後の勝者が賞金を得る形になる。金額の大きさや、顧客が一種の賭け金をプール化し、勝者がこれを取得するため、機能的にはパリ・ミュチュエル賭博に似た側面があるのだが、個人の技量も勝つためには必要となる。但し、これを賭博行為ではなく、単なるスキルのゲームと断言することは難しい。他のカジノ賭博種には無い、ユニークなルール、手順が採用されることになるため、トーナメント賭博のための別個の規制を規制機関であるカジノ管理委員会が定める必要があろう。
トーナメント・ポーカーは賭博行為である以上、当然のことながら、カジノ管理委員会より免許を取得している民間施行者以外の者がこれを主催するということはおかしなことになる(既存の類似的な民間事業者、団体が実施しているトーナメント・ポーカーは違法行為ではないとはいえ、もし、その賞金や賞品が高額になると、その存在は極めて紛らわしいものになってしまう。どうこれを位置づけるかは課題となる。何が賭博で何が賭博とならないかの判断基準は単純には決められない領域の話になるからである)。別枠で既存の民間事業者や団体の免許を認めればよいではないかとする議論もありうるが、現在議論中の制度の枠組みは、かかる考え方が認められる程単純ではない。賭博施行に関与できうる主体は厳格に限定することが全ての前提となり、中途半端に、例外的な枠組みで免許を付与することは現状の議論では想定されていないからである。最も、組織化された形でのトーナメント・ポーカー賭博が免許事業者により、施行されるようになると、所謂「遊び」に近い景品しか期待できない既存のトーナメント・ポーカーは顧客を惹きつけることができなくなる公算も高い。
わが国において採るべき施策の基本として、トーナメント賭博は、限定された数のカジノ賭博の運営免許を取得している民間施行者によるカジノ管理委員会に対するイベント毎の許可制として認めるべきではないかとも思われる(開催要件即ち、規模、ルール、顧客賭け金の額、税率ないしは納付金率等予め定められた項目を申請し、イベント毎に認可を得て、トーナメント賭博を実施する)。よって、開催主体、開催地は既存のカジノ施行者、既存のカジノ施設内に限定され、これ以外の主体、場所は認められないという前提になる。ゲームの展開自体は、スキルのゲームに近く、ここに不正やいかさまが入り込む可能性は、限りなく限定されるが、イベントを主催する民間施行者(基本的にはイベントのオーガナイザーに近く、自らリスクをとって胴元の役割を担っているわけではない)が、賭け金部分をごまかしてとってしまう(スキミングする)リスクは存在し、施行者に対し、厳格な廉潔性が要求されることは、その他の賭博種と同様である。この意味では、だれもが、自由に手掛けられるビジネスではありえない。トーナメント・ポーカー賭博自体は、カジノ施行者にとっての収益は所場代しかないため、あまり事業性が高い賭博種とはなっていない。但し、ゲーム自体の人気の高さ、その話題性、集客力、イベント性、エンターテイメント性等により、充分な消費効果をもたらすことが期待されており、カジノ施設にとっては必須のコンテンツの一つともなっている。