地方公営競技は地方公共団体がなす営利事業となるのだが、その施行収益は当然のことならが、これを主催する地方公共団体に帰属する。公営賭博を主催する権利は、必ずしも全ての自治体に同等に与えられているわけではなく、主催できる自治体が限られ、メリットを得られる自治体は限定される。賭博の種類により異なるが、宝くじ等の場合には、その発行主体は、財政上の課題から国(総務省、財務省)が必要と判断する自治体に限られる。もっとも、地域単位で自治体がグループ化して、施行を担い、メリットを分担することが通例である。その施行や運営に競技場を必要とする場合には、当該競技場が設置される基礎的自治体や周辺団体、広域団体が主催者として参加することが多い。また施行に競技場を必要としない場合にあっても、同じ都道府県内の基礎的自治体や広域的自治体が参加して、共同で施行するということも多い。これらも近接する複数の地方公共団体や広域地方公共団体が協働・連携してメリットを分担しあうという考え方になる。
勿論上記の考えは全ての地方公共団体が連携して参加するという仕組みではない。施行に参加する特定の地方公共団体のみが利することができるというこの現状は、自治体間で「不公平感」が高まると共に、自治体間の「格差」が生まれるという課題をもたらしてしまう。勿論賭博収益で自治体財政が豊かになれば、当該自治体が地方交付税の交付団体であれば当然交付税措置が減額となったり、不要となったりするわけで、自治体間格差を無くす制度的枠組みは別途存在する。但し、もし当初から不交付団体であるならば、明らかに賭博主催者となる自治体は他と比較すると財政的メリットをフルに享受できる。ここから生じる自治体間の格差は適切か、また公平といえるかという課題が必然的に出てくることになる。
我が国には従来から国土の「均衡ある発展」という考え方があったが、これは自治体間で差別や差異が生じないようにするという政策的な考え方でもあった(よって、日本中どこへ行ってもインフラの施設整備のレベルや公共サービスの在り方は類似的になる)。かかる考え方からすれば、これら一部の特定の地方公共団体の賭博収入は、賭博施行に関与していない地方公共団体を含めて、何等かの形でメリットの一部を全体に再配分すべしとする考え方が生じてくる。これを「均てん」という。例えば、地方競馬や競輪、オートレース、競艇等の買得金(売り上げ)の1%弱は地方公営競技納付金として「地方公共団体金融機構」に交付されるが(根拠:地方財政法第32条の2,同施行令第17条の2)、これは、地方公共団体に対する資金貸し付けや地方債利子の軽減に利用されるための財源となっている。交付された資金は、「公営企業健全化基金」として、現在まで約0.9兆円規模に積みあがっている。間接的に地方公営企業に貸し付けたり、地方債の金利補填の原資にしたりすることで、自治体間で均てんするという仕組みになる。もちろん、この仕組みは全ての自治体が利用するわけではなく、平等に配分するわけでもないのだが、全体のためにという点が強調できる仕組みなのであろう。
賭博を施行することに伴い巨額の税収ないしは収益が地方公共団体に見込まれる場合、我が国では必ずと言っていいほど、「公平性」の議論が生じてしまう。新しい賭博種を制度として導入することを議論する場合、必ず公営競技の事例が参照され、伝統的な地方公営競技に見られる均てんの考え方を取り入れるべきか否かという点が政治的な課題になってしまう。できうる限り財政的には公平を期するという考え方が、メリットを得られない自治体にとっての説得材料でもあるのだろう。公営競技制度ができた昭和20年代は、確かに公平性、平等の論理がより重要なウエイトを持っていたことは間違いない。但し、現代社会において、この考えやアプローチが通用するか否かに関しては、慎重な検討が必要だろう。カジノの場合には、地方公共団体による誘致、民設民営を前提とする場合、様々な議論が輩出する。
カジノ施設を自らの地域社会で許容するか否かは基本的には当該自治体や自治体を構成する住民の判断如何となる。もし、これが実現する場合、当該カジノの施行を誘致する自治体は、明らかに税収、雇用、経済活性化、観光客・来訪客増等様々なメリットを取得することができる。一方、このメリットの裏側には、地域住民の不安や懸念を払拭するような施策や、地域住民を保護する様々な施策(未成年層の隔離、地域住民内におこりうる依存症患者対策)等が必要となり、潜在的な社会的危害を抱え込むリスクとそのための社会的費用を当該自治体が内包してしまうことをも意味する。メリットを享受するためには、地域社会にとってのデメリットやリスクもありうることになり、これに対処するための応分の経済的メリットを得られなければ、そもそもかかる施設を誘致する価値は無くなってしまう。リスクを取り、チャレンジする自治体には、応分のメリットがあってしかるべきで、自治体間でチャレンジや努力が財政力の差異をもたらしうることは、当然の結果であり、無理にこれを国が法や規制で是正すべきではない。地域の活力を削ぐことになるからである。