地方自治体にとり、IRの開発及び実現に必要となる行政が負担すべき費用と行政にとってのリスクはどのようなものとなるのであろうか。これを理解するためには、時系列的に行政が関与しうる業務範囲と業務量を考察することが必要である。開示された超党派議員連盟による会長私案IR実施法案によると、IRの構想・計画の立案と実現には、地方公共団体が深く関与することになる。これは四つの異なったフェーズで構成される。
即ち;
① 第一フェーズ:
国が定める区域指定の判断基準に準拠し、地方公共団体がIRの構想、計画を立案し、国に対し、申請・提案をなし、指定を受けるまでのフェーズ。
② 第二フェーズ:
地方公共団体が、国からの指定を受け、IR具体化の為の実施方針を定め、開発を担う民間事業者を選定し、開発と施行にかかわる条件を当該事業者と詰め、開発協定を締結するまでのフェーズ。
③ 第三フェーズ:
協定に従い、当該民間事業者が国からの免許を受け、資金を調達し、IRを整備し、運営のための全ての条件を満たして、運営を開始するまでのフェーズ。
④ 第四フェーズ:
IRの運営フェーズ。
である。
上記の内、第一フェーズから第三フェーズまでは行政は案件の未実現リスクを抱えることになる(即ち、国により指定を受けられないリスク、国の指定を受けても事業者を選定できないリスク、事業者を選定しても当該事業者が何等かの理由でIRの整備/運営に至らないリスク等である)。第一フェーズでの行政の業務とは、基本的な市場性・可能性を調査し、IRの構想を固めることにある。このため、社会経済影響度評価を実施し、地域社会における想定されるプラスとマイナスの影響度を評価したり、地域社会における中長期インフラ・産業整備施策や観光振興施策との整合性をとりつつ、全体の構想・企画を策定し、国に対する提案を纏めたりすることになる。業務遂行のために、コンサルタントやアドバイザーを起用する調査費用が必要になると共に、専門にフォローを担う人員配置が必要になる。また、住民や議会の理解を得るための様々なイベントや説明会を開催したり、国が要求する資料等を作成したりする業務も含まれる。これらにかかる費用は、当該自治体が指定を受けられない場合、全てが行政の負担になる(指定を受けられる場合、後述するように第三者に支払った実費用を回収できる可能性がある)。第二フェーズにおける自治体業務は、より詳細かつ作業量の多い業務になる。国の指定を受け、IRの実現に向け、具体化のための方針を纏め、公表し、開発と施行に係る要件を定義したり、地域貢献義務や、地域社会における否定的要素を軽減する施策や条件を纏めたりする。これらを要求水準として事業者を公募で募る。複数の事業者による提案を受領・評価・審査し、交渉の上事業者を選定し、この結果として開発協定を締結することが第二フェーズの目的になる。このために、技術コンサルタントや案件形成支援のためのコンサルタント、弁護士等を起用することになり、かなりの第三者支払費用負担を強いられる。もっとも公募の要件として、第一フェーズ以降、第二フェーズ迄の全費用を協定締結の前提としてその支払を選定事業者に要求することができる(諸外国での通例で、民間事業者に行政の負担を求めることはおかしな話ではない)。但し、可能性は低いが、事業者選定に失敗したり、協定を締結できず、一定期間を経過し、国により区域の指定を取り消されたりする場合には、これら費用は全てが行政負担となってしまう。第三フェーズはIRの整備フェーズになり、行政の業務は、安全さ、健全さを担保した施設を実現させること、そのための体制を作らせることをモニターすることが主体になる。協定の内容次第では選定事業者に行政にとり必要となる費用を転嫁できる。一方、協定の中で規定する条件次第では、上下水道の整備やアクセス道路、周辺地域環境の整備等に関し、(通常の自治体が担うべき業務として)、その費用を負担する可能性はある。この段階でも選定を受けた民間事業者が資金不足等の理由により施設を完工できないという未実現リスクは自治体に残ることになる。第四フェーズは運営段階となり、協定に記載された民間事業者の義務履行の遵守をモニターすること、地域住民とともに、地域の善良なる環境を保持するための必要な調整業務等が自治体の主要業務となる。この段階に至れば、税収、雇用、消費等地域社会としてのメリットを享受できる段階になるが、施行がうまくいかず、民間事業者が破綻するリスクは理論的に存在すると共に、リスクが顕在化した場合、事業者代替等に絡み行政にとっての追加的な業務や費用負担もありうる。
IRを推進し、開発するための行政による負担とは、自らがIRに関し資金を投入するということではなく、あくまでもIRの構想と計画に伴う調査研究、検討、評価と地域指定・事業者選定に伴う様々な方針策定、枠組み構築に係るアドバイザーやコンサルタントに対する支払費用や、IRの実現に伴い付帯的に生じうる地域インフラの整備や公共秩序の維持の為の費用等が主体になる。尚、上記は現段階における合理的な推定であって、各々のフェーズにおける想定される行政にとっての業務の内容と必要となる費用項目及びリスクの詳細は、IR推進法制定後詳細を詰めることになるIR実施法の内容や、関連する地方公共団体の体制や行政府の意図次第では変わりうるし、行政の負担も変化する可能性があることに留意する必要があろう。