カジノの施行に関与しうる主体として、免許が要求される対象者はかなり広範囲になる。如何なる主体をどのように規制の範囲に取り込み、免許の対象として考えるかに関しては、国毎に微妙に考え方が異なる場合がある。基本的な考え方は、①リスク・ベースの判断により、カジノにリスクをもたらしうる可能性がある主体が免許の対象になること、②カジノの実際の現場に近ければ近い程厳格な審査と免許の対象になること、③カジノの現場からより遠い主体は、その関与の度合いに応じて厳格度が決まる審査と免許の対象になること等になる。関与の在り方により、規制の深さが変わってくることになる。我が国においても、この基本的な考え方は諸外国と同一であるべきであろう(尚、米国では当初は直接的、間接的関与を問わず非差別的に業に関与する主体全てを免許の対象にしたが、段階的にリスク・ベースの考え方に変化してきており、該当する職位のリスクの高さに応じて、免許や審査の在り方を変える考え方になりつつある)。
上記前提をとった場合、申請行為により、免許・認可の対象となる主体とは、下記になる。
① 施行に直接係わりうる主体(カジノ施行者とその構成員、その主要株主等):
施行者となる民間主体の構成員、経営者、主要管理職、直接的にゲームや金銭管理に関与しうる従業員等は、個人としての就業の可能性を含めて全て規制当局からの免許取得の対象となる。これら主体は、個人・法人に拘わらず、詳細な自己申告を含む申請書が要求され、その内容の適格性が調査・審査されることになる。もし、何らかの問題が露見した場合には、当然のことながら免許申請は拒否され、この業に従事することはできない。また当該施行者に直接的・間接的に影響力を行使できうる株主(通常有効議決権の5%以上を保持する株主)も、規制当局に対する免許・認可の対象となる。尚、米国では個人の場合、その家族を含めて、不適切な主体との関係性や資産状況の背面調査がなされるが、わが国の場合、そこまでの規制の深さが必要となるかに関しては課題になる。
② カジノ施行者との契約関係により、顧客に対するサービス提供を担う主体(個人・法人):
カジノ施設はサービス産業である以上、カジノの施行者との契約行為に基づき顧客に対する様々なサービスを提供しうる主体が存在しうる。典型的なのはジャンケットと呼ばれる優良顧客を集めるサービス業になり、これは様々な付帯サービスを提供することで顧客を集めてカジノへ誘い、顧客が賭けをすることにより、一定のコミッションを取得できるサービス事業者である。顧客に対する直接のサービスで、尚かつその収益の源泉をカジノ施設が支払うことになるため、諸外国では施行者と同等の免許取得の対象となる。我が国においても同等の制度が設けられる場合、関連するサービス事業者は免許の対象となる。
③ カジノ施行者との契約関係により、施行者に対する何らかのサービス提供を担う主体(個人・法人):
施行者との契約関係に基づき、施行者に対し、何等かのサービスを提供し、そのサービスの結果にもとづき報酬を得る契約を締結する場合には、その内容次第では、当該企業及びその主要経営者(役員)は免許の対象となる。
④ カジノ施行者に対し、カジノ場ないしはバックヤードで使用されるゲーム機械、電子式機械、管理システム、器具、用具、監視器具・システム等を製造し、供給する主体(個人・法人):
カジノ場でカジノの運営に直接係わる機械・機材・器具・用具・システム等を納入する事業者及びその主要経営者(役員)は、免許の対象となる。これら主体が認可の対象となるのは、ゲームの帰結に関し、何らかの人為的な影響力を行使できうる立場にあると想定されるからである。
尚、申請し、許諾を受ける主体は本邦法人、あるいは本邦に住居を得る(国籍を問わぬ)個人でもあり、外国の事業者の場合には、その本邦法人、経営者、主要株主が認可の対象になることになる(尚、施行者としての免許の申請主体がこの目的のためだけのSPC-特定目的会社-である場合には、SPCと共にその出資者は連帯して免許取得が要求される)。勿論制度上は、上記主体に限らず、規制機関の任意の判断により認可・認証を必要と判断した場合には、規制機関は必要に応じて、関与し、適切な措置を取れることを前提とする。これは、制度や規制の抜け穴を考える主体を排除するためでもあり、カジノとは何でもできる自由な業ではありえないという前提に立った考え方になる。
この様に、免許取得の対象となる主体の範囲と深さをどの様に決めるかは、一国の政策的判断となるが、通常の業とは異なり、かなり広範囲かつ、深くなることが商業的カジノ業の通例でもある。わが国においても、先進諸外国では共通しているこの規範は、逸脱すべきではない。